『セリエA“ビッグ3”前半戦総括:ユベントス編』エースの決定力の低さが勝ちきれない要因「後半戦はトップ4入り争いが焦点に」【現地発コラム】

 今なおリーグで唯一無敗を保っているものの、7勝10分けという成績が示す通り勝ち切れない試合が多く、順位も首位から9ポイント差の6位と期待を下回る水準に留まっている。

 昨シーズンにボローニャを5位と躍進させて大きな注目と評価を集めたチアゴ・モッタを監督に招聘し、1億6000万ユーロ(約261億円)という大金を投じてその要望に合わせた戦力補強を行った経緯からすれば、チームが固まるまで多少の時間を要するにしても、最終的には少なくともトップ4(CL出場権)、できればスクデット争いに絡む結果が求められるところ。まだシーズンは半分強を残しており、挽回の余地は十分にあるものの、新監督のプロジェクトが当初期待されたほど順調に進捗していないという印象は拭えない。

 T・モッタ監督が志向するサッカーは、ボール支配を通じて主導権を握ることを重視するという意味では「攻撃的」と言える。ただし、リスクを冒してゴール前に人数をかけることをせず、つねに攻守のバランスを保って試合を進め、少ないけれど質の高いチャンスを活かして奪ったゴールをしっかり守って勝つという、効率的で手堅い戦い方を好む側面もある。昨シーズンのボローニャでも、得点(54)はリーグ7位ながら失点(32)はリーグ3位と、安定した守備こそが躍進の基盤だった。

 今シーズンのユベントスにも、そうした指揮官の哲学は明確に反映されている。それを象徴するのが、リーグ1位の60.4パーセントと高いボール支配率を保っていながら、シュート数(215)、枠内シュート数(66)はいずれもリーグ9位、得点(26)もリーグ5位に留まっている事実。その一方で被シュート数(147)、被枠内シュート数(43)、失点(13)はいずれもリーグでトップ2に入っており、守備の安定度はすでに十分なレベルに到達していることがわかる。

 となると問題は攻撃、とりわけゴールに直結するラスト30メートル攻略の質になる。昨シーズンのボローニャでも、ボール支配率の割にペナルティーエリア侵入数やシュート数が少ない傾向は同じだった。違うのは、作り出したチャンスをゴールに結びつけるフィニッシュワークの効率だ。

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  昨シーズンのボローニャは、センターフォワード(CF)のヨシュア・ジルクゼーが頻繁に中盤に下がってきてチャンスメークを担い、彼が作り出したスペースにトップ下のルイス・ファーガソンやウイングのリッカルド・オルソリーニが入り込んでフィニッシュに絡んで行く前線の流動性が大きな特徴だった。

 一方、ユベントスのCFドゥシャン・ヴラホビッチは、最前線中央にほぼ常駐してフィニッシュを一手に担うタイプ。それもあって前線の流動性は相対的に低くなっている。そのヴラホビッチは、シュート本数(47)がリーグ6位、その累積ゴール期待値9.5はリーグ3位と、かなり多くの決定機を得ているが、得点はその期待値を2.5下回る7止まり。しかもそのうち4点はPKによるもので、PKを除くとゴール期待値6.3に対してその半分以下の3得点しか挙げていない。エースストライカーの決定力の低さが、勝ち切れない試合=引き分けの多さにつながっている側面があることは否定できない。

 とはいえ、チームの土台である守備はすでに十分安定しているだけに、攻撃のクオリティーを上乗せできれば、引き分け止まりの試合を勝ちにつなげる頻度は高まっていくはずだ。ヴラホビッチの決定力向上に加えて、大きな期待を集めながらここまでは決定機に絡む頻度が低く攻撃への貢献度が低いトゥーン・コープマイネルスの覚醒、故障で前半戦の大半を棒に振ったニコラス・ゴンザレスの本格復帰など、攻撃の「伸びしろ」は大きく残されている。

 OptaのAIが弾き出した最終勝点予測は「69.55」で、ラツィオの「70.97」に僅差で続く5位。インテル、アタランタ、ナポリという上位3チームとの差を詰めるのは厳しそうで、後半戦は指揮官にとって最低ノルマであるトップ4入りを巡るラツィオとの争いが焦点になりそうだ。

文●片野道郎

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