かつてサッカー不毛の地と呼ばれていた新潟県。しかし、アルビレックス新潟が誕生し、サッカー熱に火が灯り、高校サッカーでは帝京長岡が全国屈指の強豪校となった。そして、近年は大学サッカーでも新潟は大きな旋風を巻き起こしている。
この旋風を起こしているのが新潟医療福祉大だ。一昨年度のインカレで北信越勢として初の全国大会ファイナリストになり、元日国立での決勝では桐蔭横浜大と壮絶な死闘を演じて準優勝。昨年度は総理大臣杯でベスト8、今年度は夏の総理大臣杯で準優勝、そして今、開催されているインカレでは2大会ぶり2度目の決勝進出を果たしている。
なぜここまで目覚ましい結果を生み出しているのだろうか。それは2014年に就任した佐熊裕和監督の存在なくしては語れない。佐熊監督はかつて桐光学園高校を無名の存在から全国屈指の強豪校に育て上げ、中村俊輔の恩師でもある。2013年にS級ライセンスを取得してから中国のクラブを1年率いた翌年に新潟にやってきた。
当時の新潟医療福祉大は2012年に北信越1部リーグで優勝していたが、全国では勝てないチームだった。選手獲得から精力的に始め、個々の個性を見逃さずに丁寧に伸ばす指導でメキメキと頭角を現した。
2022年には小森飛絢(現・千葉)、オナイウ情滋(現・仙台)らを擁して総理大臣杯ベスト8に進出。これがきっかけとなって、一気にブレイクスルーの時を迎えた。
「新潟に来てから選手たちには北信越内だけではなく、大学サッカーを牽引する関東、関西と開いてしまった大きな差をどう埋めて、互角に戦っていくかを考えろと常に言い続けてきました。北信越で結果を出したとしても、決して『井の中の蛙』ではダメだし、公式戦ではなく、日々の紅白戦から全国レベルにこだわってやらないと、いつまで経っても組織として強くなれない。紅白戦こそ自らとチームのレベルを向上させる重要な機会なんです」
実際に新潟医療福祉大のグラウンドに足を運ぶと、そこには公式戦さながらのバチバチのバトルが繰り広げられる。大学時代の小森も「北信越と言うとレベルが低いように思われますが、僕らの日常はそんな甘いものじゃない。僕も気の抜いたプレーをしたらすぐに外される危機感を持ってやっていますし、この緊張感が成長させてくれています」と口にしていた。
関西だろうが、関東だろうが自分たちはやれる。この自信と日常の積み重ねが全国に出ても、全く動じずに戦うベースとなり、こうして結果が出るのはある意味必然だった。
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今年、松本天夢(長崎内定)、秋元琉星(群馬内定)と2人のJ内定者と、プロクラブが争奪戦を繰り広げる3年生MF細井響など能力の高い選手を擁して臨み、前述した通り総理大臣杯で準優勝。インカレ決勝ラウンドのBグループでは、一昨年度に決勝で敗れた桐蔭横浜大、関西王者で総理大臣杯決勝で敗れた阪南大、東海地区第二代表の中京大と、『死のグループ』と言われていたが、無傷の3連勝で首位通過。
決勝トーナメントでは準々決勝で日本大を下すと、準決勝では昨年度王者であり、関東学生リーグ1部で史上初の無敗優勝を遂げた明治大に0-0のPK戦の末に撃破。3度目の全国ファイナリストとなった。
「僕の方よりも選手の方が総理大臣杯準優勝という結果を悔しがっていた。あれ以来、トレーニングの時の目つきがより変わってきた。何か甘いなと感じることがあると、僕が何を言わなくても選手たちの方で『大臣杯を思い出せ』という声が自然と出る。そこは一踏ん張りできるチームになってきた。みんなまだまだ新潟に帰りたくない。この気持ちは一つだったと思います」
こう目を細める佐熊監督だが、自身も桐光学園高時代はインターハイ準優勝、選手権準優勝と全国制覇を成し遂げていない。指揮官としては5度目のチャレンジ。選手たちにとっては3度目のチャレンジ。
そして新潟県にとって、今年は帝京長岡がのインターハイベスト4、アルビレックス新潟がルヴァンカップ準優勝、そしてJAPANサッカーカレッジが全国社会人サッカー選手権大会で新潟県勢初優勝を果たしている。
『サッカー不毛の地』という言葉はもう新潟には当てはまらない。県民の思いも背負って、新潟医療福祉大は最後の関門に全員で挑む。
取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)
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