ラベルライターのテプラや事務用ファイルを手がけるキングジムは、2025年6月期第1四半期を2億5200万円の営業赤字でスタートした。前年同期間は3億8800万円の営業損失であり、通期は赤字での着地だった。最終赤字となったのは15年ぶり。キングジムは原価高騰の影響も受けているが、増収に向けた具体的な絵が描けていない印象を受ける。
新たなライフスタイルに最適化しようともがいたが…
2024年9月に木村美代子氏がキングジムの社長に就任した。
木村氏は文具大手のプラス株式会社に入社後、アスクルの立ち上げメンバーとして事業推進に携わり、マーケティングトップの取締役CMOを務めた人物だ。
ヒット商品テプラの開発に携わった四代目の宮本彰氏は取締役会長となり、創業家以外が社長に就任するという異例の人事だった。
新体制でスタートしたのには予兆があった。それは旧体制のもとで2021年7月30日に発表した「第10次中期経営計画」の未達だ。
2024年6月期の売上高を480億円、経常利益を34億円としていた。結果は売上高が計画比17.6%減の395億円、経常利益に至っては96.2%減の1.3億円だった。
ただし、この計画はコロナ禍で見通しの悪い中で発表したものだ。
キングジムは2021年6月期が1割近い増収となっていた。
テレワークの浸透で事務用品が冷え込む中、自動手指消毒器「テッテ」や「フェイスシールド」、「マスクケース」などの衛生用品の販売強化をしたためだ。
さらに「第10次中期経営計画」ではM&Aで50億円の売上高を創出するとも宣言していた。
つまり、キングジムはコロナ禍というライフスタイルの変化を読み取り、旧態依然とした事務用ファイル依存からの脱却を図って雑貨や電子製品の強化をしようとしていたのだ。
消費者のデジタル化が進行したため、販売チャネルの多様化を図ったのもこの時期だった。
キングジムがアスクルの取締役だった木村美代子氏を招聘したのは2022年である。
アスクルは販売高の1割以上を占める大口の取引先であり、キングジムのようにマーケティングが強くはない会社にとって木村氏は最適な人物と映ったはずだ。
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サービス事業への進出とは?
キングジムは「第10次中期経営計画」において、事業領域の拡大に100億円、新製品開発・生産設備投資に20億円投じる計画を立てていた。
2021年11月に家電や雑貨の企画販売を行なうライフオンプロダクツ、そして2022年9月にキッチン用品などを扱うエイチアイエムを取得している。
2社を合わせた直近通期の売上は50億円を超える規模であり、中期経営計画達成に向けて着実に歩みを進めていたのだ。
宮本氏は激変する商環境の中で、業績拡大に向けた青写真を描き、それを実現するためにあらゆる手を尽くしていたように見える。
ただし、キングジムはコロナ禍で販売を強化した衛生用品需要の反動減に見舞われて売上高は伸び悩み、コロナ関連用品の滞留在庫の評価損を計上して営業赤字となった。
そして買収で生じたのれんの減損損失を出したことにより、最終赤字に陥り、実績を伴うことができなかったのである。
キングジムの海外売上比率は4%程度。40%の“プラス”や60%を超える“ぺんてる”などと比べると国内依存がきわめて強い。
矢野経済研究所の調査によれば、国内の文具・事務用品市場規模は2021年度に4000億円を切った(「文具・事務用品市場に関する調査を実施(2023年)」)。
キングジムはデジタル化の進行で縮小が明らかな国内市場に固執するべきではないだろう。
確かに、変革というテーマは木村氏による「第11次中期経営計画」でも踏襲されており、この計画は「骨太の方針」「資源」「既存ビジネス強化」と3つの柱で構成されている。
キングジムは2027年6月期の売上高を520億円に設定している。そのうちの50億円はサービス事業、EC事業、海外事業で創出するという内容だが、「骨太の方針」のトップに掲げているサービス事業の具体的な計画が見えてこない。
「テプラのキングジム」から「ビジュアルコミュニケーションのキングジム」へと、「表示」ニーズをビジネスに結び付ける事業の立ち上げだという。
新規サービス事業の開始と推進に10億円もの投資枠を設定している。
それだけの投資をして、顧客にどのような利益をもたらすのか。それを早く明らかにする必要があるはずだ。