『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』(12月27日公開)

 カナダの田舎町で暮らす高校生のローレンス(アイザイア・レティネン)は、映画が生きがいで、ニューヨーク大学でトッド・ソロンズ監督から映画を学ぶことを夢見ている。社交性に乏しい彼は唯一の友人であるマットとばか騒ぎをしながら、大学生活で人生が一変することを願っていた。

 そして、高額な学費をためるために地元のビデオ店「Sequels」でアルバイトを始めたローレンスは、かつて女優を目指していた店長のアラナ(ロミーナ・ドゥーゴ)らと出会い、奇妙な友情を育んでいく。だが、ローレンスは自分の将来に対する不安から、大事な人たちを決定的に傷つけてしまうことになる。

 レンタルDVD全盛期の2003年のカナダを舞台に、他人との交流が苦手でトラブルばかり起こしてしまう映画好きな高校生の奮闘を描いた青春コメディー(という割にはちょっと苦いが…)。

 監督・脚本は、本作が長編デビューとなるチャンドラー・レバック。自伝的なストーリーだが、主人公の性別をあえて男性に変更して撮り上げたのだという。

 ローレンスにとって映画は希望であり逃げ場でもあり、唯一熱中できるもの。だがそれを他者と共有できず、独り善がりになる様子は、映画好きの者からすると、自分の一部を見せられているように感じるところもあるだろう。だから彼の行動を苦々しく思いながらも心底憎むことができないのだ。

 自分を大きく見せたいために他人を見下すローレンスの突っ張る姿が痛々しくて、見るのがつらくなってくるところもあるが、そんな彼を突き放さず、優しい目線で描いているところにこの映画の救いがある。ただ、ローレンスの心の変化を見せるラストシーンは果たしてハッピーエンドなのかという気がした。

 スタンリー・キューブリック監督についてなど、映画ネタが満載。特に劇中でポイントとなる『パンチドランク・ラブ』(02)と『マグノリアの花たち』(89)のことが気になって本編が見たくなるかもしれない。店長役のロミーナ・ドゥーゴもなかなか魅力的だった。

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』(12月14日公開)

 フィンランドの鉄鋼の町カルッキラに、映画監督のアキ・カウリスマキと仲間たちが誕生させた町で初めての映画館キノ・ライカ。深い森と湖、そして現在は使われなくなった鋳物工場しかないこの町で、住民たちは映画館への期待に胸をふくらませ、映画について口々に語り始める。

 カウリスマキと共同経営者の作家ミカ・ラッティが2021年に映画館をオープンさせるまでの様子や、住民たちがインタビューに応じる姿などをヴェリコ・ヴィダク監督がカメラに収め、カウリスマキが自ら館内の内装や看板設置などの作業に勤しむ姿も映しだす。

 映画館が完成するまでの様子を緩い感じで追っていくドキュメンタリー。さまざまな町の住民たちに加えて、カウリスマキ監督の『希望のかなた』(17)に出演した人々や『枯れ葉』(23)に出演した女性デュオ、盟友ジム・ジャームッシュ監督らも登場し、カウリスマキとの思い出や映画への思いを語る。現地に移り住んでいる日本人による日本語の歌も流れる。

 こうして住民たちが映画館に期待を寄せる姿を目にすると、改めて映画館の存在意義について考えさせられるし、北欧らしいデザインで建てられたこの映画館に行ってみたくなる。

(田中雄二)