今年日本で公開された外国映画の中で最も注目を集めたのは、原子爆弾開発の指導者的役割を果たした理論物理学者を描いた『オッペンハイマー』だろう。
第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞(クリストファー・ノーラン)、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニーJr.)など、計7部門で受賞した。
唯一の被爆国である日本では“原爆の父”を描いた映画だけに一時公開が危ぶまれたが、受賞直後に公開され、マスコミも大きく取り上げたこともあり、大ヒットを記録。否定的な声もあったが、おおむね好評を得た。ノーラン監督が、一方的にではなく、多面的な要素から原爆開発を捉えたところが功を奏したのだろう。
とはいえ、外国映画全体を考えると、低調ぶりに拍車が掛かっている感がある。何しろ今年の日本における映画興行収入ランキングのベストテンに実写の外国映画が1本もランクインしていないのだ。コロナ禍以降、日本では残念ながら外国映画はヒットが見込めるコンテンツではなくなり始めたのかもしれない。
そんな中での派手な話題としては、パリ・オリンピックの閉会式にトム・クルーズ登場したことが挙げられる。トムは「ミッション:インポッシブル」さながらにスタジアムの屋根から飛び降り、パリの街をバイクで駆け抜け、飛行機に搭乗して次回のオリンピック開催地ロサンゼルスのハリウッドサインにスカイダイブで舞い降りるという離れ業を披露した。来年5月に公開予定の『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』にも期待が膨らむ。
今回は、筆者の独断と偏見による「2024年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。
【外国映画】
今年公開の日本映画で1本挙げるとすればやはり『侍タイムスリッパー』になるだろう。この映画は、始めは池袋シネマロサ1館のみで上映がスタートしたが、口コミやSNSでの評判が拡大し、ついには全国規模での上映に至るという異例のヒットを記録した。これは『カメラを止めるな!』(17)以来の快挙。映画上映の新たな展開として注目される。
また、今年の日本映画界は受賞ラッシュに沸いた。第96回アカデミー賞で、宮﨑駿監督の復帰作となった『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞し、山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞したのだ。そのほか、ディズニーチャンネルが製作したドラマシリーズ「SHOGUN将軍」が第76回エミー賞で真田広之の主演男優賞、アンナ・サワイの主演女優賞など全18部門を独占受賞したことも記憶に新しい。
『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督も、今年は『碁盤斬り』『十一人の賊軍』と2本の時代劇を監督した白石和彌監督も「外国に日本映画(特に時代劇)を持っていくととてもいい反応が帰ってくる。ある意味、今が海外進出のチャンスなのかもしれない」と口をそろえる。日本映画がアニメーション以外でも勝負ができる時代が早晩訪れるかもしれない。
【日本映画】
1.『侍タイムスリッパー』本物の侍が時代劇の斬られ役に
2.『ラストマイル』「アンナチュラル」「MIU404」と同じ世界線で展開する
3.『八犬伝』“虚”と“実”を見事に融合させた
4.『悪は存在しない』全く予測がつかない展開を見せる
5.『碁盤斬り』新作のラインアップに時代劇が並ぶ喜び
6.『アイミタガイ』思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇
7.『九十歳。何がめでたい』とにかく草笛光子が素晴らしい
8.『はたらく細胞』人間の体内の細胞たちを擬人化
9.『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』だまされる快感が味わえる
10.『十一人の賊軍』仲野太賀が随一の活躍を見せる集団抗争時代劇
(田中雄二)