今季のテニス界ではドーピング騒動が大きな話題の1つだった。シーズン中の薬物検査で、ヤニック・シナー(イタリア/男子世界ランク1位)とイガ・シフィオンテク(ポーランド/女子2位)という男女のトップ選手の検体から禁止薬物が検出。どちらも「ITIA」(テニスの不正行為を監視する第三者機関)への不服申立てが認められ、重大な過失はないとして大事に至らず決着した。
一方で、両者の問題が発覚する前の3月には、ドーピング違反で4年間の出場停止処分を科されていた元世界1位のシモナ・ハレップ(ルーマニア/現877位)が復帰。彼女は禁止薬物の摂取が意図的ではなかったと裁判で認められるまでに約2年間を要しており、この対応の違いも話題を呼んだ。
そんな重大事件の影響もあり、テニス界のドーピング検査への関心は高い。と同時に、テニス界の薬物検査は、頻度やタイミングの面で他の多くの競技よりも厳しいことで知られている。
元世界8位のジョン・イズナー(アメリカ/2023年引退)もクレイジーな検査経験を持つ一人だ。サム・クエリー(アメリカ/元11位/22年引退)やジャック・ソック(アメリカ/元8位/23年引退)と出演しているポッドキャスト『Nothing Major』で彼は次のようなエピソードを披露している。
現役時代のある日の早朝、イズナーはドーピング検査官の訪問を受けたという。
「『朝8時の便に乗るんだけど、さっきトイレに行ったばかりだよ』って言ったら、検査官はタンパ空港までついてきたんだ。フライトのチェックインが終わったらきっとトイレに行きたくなるだろうから、セキュリティを通らないつもりだと検査官に言った。彼も『わかった』って言ってくれた」
しかし、搭乗時間が迫るなか思うように尿意が来なかったのだろう。検査官はどこまでもイズナーについてくることになった…。
「でも結局は荷物を預け、彼にはセキュリティチェックを通らせて『今なら大丈夫だ』と言った。そして(一緒に)空港のトイレに行ったんだよ」
テニス界のドーピング検査の徹底ぶりや過酷さについては、これまでもさまざまな選手が発信してきた。例えば伊達公子氏は、就寝した後にやってきた抜き打ち検査の経験があるという。起こされたうえ、尿サンプル提出のため、大量の水を飲み長い時間を費やした。なんとか検査を終えた後も尿意で何度も起きるはめになり、翌朝からの練習に支障が出たそうだ。
ドーピング検査の目的は、競技の公平性の確保やアスリートの健康保護、さらにはスポーツの信頼性維持にある。それだけに厳しい内容となるのは仕方がない。ただ、アスリートたちの不満には一理あり、検査方法を改善していくための貴重なフィードバックとなるはずだ。
構成●スマッシュ編集部
【動画&画像】シフィオンテクが公開したドーピング騒動に関する説明
【関連記事】禁止薬物検出で無罪となったシナーを待ち受ける、「妥協を許さない男」として恐れられるドーピング紛争のスペシャリスト<SMASH>
【関連記事】「ダブルスの名手パーセルがドーピング違反で出場停止!「処分を自主的に受け入れました」<SMASH>