2024年は、企業の早期・希望退職募集が前年同期比で約3倍となり、過去最多水準だったという。早期退職をした先に待ち受けているのはどんな未来なのだろうか。関東近郊に住む早期退職者のゴトウさん(仮名)に話を聞いた。
マスコミ関係の仕事を33年務めてから退職
マスコミ関係の仕事に33年間勤続した後に退職し、現在は57歳。「会社ではこれ以上昇進や昇格の見込みがなかったため、早期退職募集に応募しました」とゴトウさんは退職理由を話す。
「30年近く勤めると、自分のアイデンティティの多くが会社の仕事の経験です。ですから退職すると、それがすべてご破算になるわけです。退職後もまだ仕事をして生きていかなければならないので、退職直後はそれをどのように生かせばいいかということばかり考えていました」
いまでこそ、転職することはまったく珍しいことではないが、昭和世代においては“終身雇用”が当たり前とされていた。ゴトウさんも例にもれず、一つの会社で30年以上勤めあげたが、ついに大きな決断を下すことにした。
ゴトウさんにはこの早期退職において、勝算があった。退職後の計画をいくつかしっかりと決めており、もしプランAがダメでも別のプランBを……と戦略を練っていたのだ。
だが退職後、ゴトウさんを待ち受けていたのはイバラの道だった。
「私は、元いた会社から業務を委託する小さな会社を設立するつもりでしたが、その委託業務が社会問題となって中止となり、会社設立の話が途中で立ち消えになってしまったのです。
そして、このプランがダメだった場合の別のプランとして考えていたのが、親戚が経営する会社の承継でした。しかし退職後、その親戚は実は承継をする気がないことが判明、そのことなどが原因で親戚とは関係を断絶することになりました」
プランが狂ったことに関しては「思うようにいかないだろうとは最初から想定していたので、その点はそれほど衝撃を受けることはありませんでした」と明かすものの、親戚との絶縁については完全に予期せぬトラブルだった。
「自分の退職が人の縁を切るきっかけとなってしまったようで残念に思っています」と複雑な心境を吐露した。
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転職活動で経験した悔しさ
またゴトウさんはこれを機に、転職サイトに登録して転職活動を試みたが、ここでも厳しい現実に直面した。想像を絶するシニア世代の転職の難しさだ。
「50代の転職は厳しいですね。同時期に退職した同期が、大手転職サイトで転職先を見つけたとも聞きましたが、それはかなりレアなパターンかと思います。私を担当してくれた転職エージェントは、『見つけるのは相当難しい』としながらも、私の経験に見合った企業の応募を勧奨してくれました。しかしその通りに数社応募したところ、書類選考の時点でほとんど全滅、一社を除いて面接にまでもたどり着けませんでした。
少し悔しくなったので、ダメだとわかりながらも試しに、年齢を20代に変えてみたのですが、すると毎日のように企業側から面接のリクエストが送られてきました。雇用対策法で採用条件に年齢制限を加えることが禁止になっているので、表向きは応募可能になっていますが、裏では制限がかかっているのでしょうね」
やはり転職活動をする上では、年齢があまりにもダイレクトに難易度を押し上げているようだ。転職エージェントはゴトウさんの前職・マスコミ関係に合わせて放送、出版、広告、芸能プロダクションなどの求人を紹介していき、中にはAV女優のマネージャーというレアな職の紹介もあったという。
だがAV女優のマネージャー職を提案されるころには、ゴトウさんの心はどこかの企業の社員になるのではなく、個人事業主としてやっていく決意を固めていた。
そして現在では、元いた会社から前述の業務委託とは別の業務を請け負い、それを軸にこつこつ仕事をする日々を過ごしている。
ある程度は想定していたものの、退職後に待ち受けていた厳しい現実。 「もしも決断をやり直せるならばどうするのか?」ゴトウさんに質問を投げかけた。