21世紀に入ってから冬の高校サッカー選手権で脚光を浴び、世界に飛び出していった選手は多い。しかし、圧倒的な存在感を放ち、眩いばかりの光を放った選手はほんのひと握り。大久保嘉人(元・国見)、大迫勇也(元・鹿児島城西/神戸)、松木玖生(元・青森山田/キョズテペ)。いずれも10代の頃から特別なスター性を持ち、その大会を象徴するプレーヤーとして今も記憶に刻まれている。
そんな高校サッカー界で久々にスター性を持った選手が現われた。日章学園のFW高岡伶颯(3年)、17歳。昨秋のU-17ワールドカップで4ゴールを挙げ、今夏にはプレミアリーグのサウサンプトン入りを決めたストライカーが最後の大舞台に立つ。
日章学園を牽引するストライカーは機動力と決定力で違いを生み、守備では誰よりも献身的にボールを追い続ける。ピッチに立てば、常に全力プレーで一切の妥協を許さない。守備でも攻撃でも不思議と何かやってくれそうな期待感がある。しかし、ここに来るまでの道のりは山あり谷ありだった。いかにして高岡は成り上がってきたのか。選手権を前に話を訊いた。
――◆――◆――
2007年の3月12日に宮崎県で生まれた高岡は子どもの頃から好奇心旺盛で、野を駆け回るような少年だった。「外で遊んでばっかりでしたよ」。日が暮れるまでボールを蹴り、泥だらけで帰ってくるような日々。小学校に入ると、高校時代に国体(現在の国民スポーツ大会)で興梠慎三とFWでコンビを組んだ父の影響でサッカーを始め、メキメキと頭角を現した。
地元ではちょっとした有名なサッカー少年。県トレセンにも選出されるほどのプレーヤーになったが、中学では県内の強豪である日章学園中ではなく、生まれ育った三股町にある三股中を選んだ。理由はシンプル。気のおけない仲間たちと楽しくサッカーをしながら、日本一を目ざしたいという想いからだった。
当時は「日本一は余裕でしょ。どこに行っても獲れると思っていた」とは高岡の言葉。「三股中にたまたま上手い選手たちが集まっていた」こともあり、輝かしい未来を信じて疑わなかった。しかし、現実は甘くない。日本一はもちろん全国大会にも出場できなかった。
「九州大会に出場したけど、そこでヒーローだったのは神村学園中のガク(名和田我空/3年/神村学園高、G大阪加入内定)。活躍している姿を見て、うわーって思いましたよ」
同じ宮崎県出身で小学校時代に県選抜でチームメイトになった経験もある名和田が、その名を轟かせていた。上には上がいる――。そう思わされた高岡は中学卒業後の進路を決める際に、大きな決断を下す。誘いを受けていた日章学園高でプレーする意思を固めたのだ。
【動画】高岡の3人抜きのゴラッソも! 選手権 宮崎県予選決勝 日章学園vs宮崎第一ハイライト
入学直後からAチームでプレーした一方で、今までとは異なる環境で大きな壁に当たった。高岡は言う。
「中学校の頃、試合中はみんなにめちゃくちゃ言いまくっていた。ガーって言っていましたから。でも、逆に高校に入ってから(遠慮して)言えなくなってしまった。インターハイでもメンバーに入れず、俺は何ができるんだろうって考えさせられたんです」
高岡は多くのことを考えた。何ができるのか――。そこで思い出したのが、過去の自分だった。
「『あ、そうだ。俺、言えるやん』って。もっと要求して、チームを鼓舞しよう。それを考えたら中学の時の自分を思い出して、そこをもう1回蘇えらせた。でも、今度は言葉を選びながら、大人になろうという気持ちもあって、それがプラスに働いた」
周りに左右されない。言うべきことは言う。周りにも遠慮はしない。前を見て、ひたむきにボールを蹴り続けた男は瞬く間に勢いを取り戻し、その年の選手権にも1年生ながら出場。そして、翌年2月の九州新人サッカー大会で代表スタッフの目に留まると、翌月に初めて世代別代表に選出された。
U-17ワールドカップを目ざすU-16日本代表でアルジェリア遠征に参加すると、森山佳郎監督(現・仙台監督)の評価を得て代表に定着。6月のU-17アジアカップ(U-17ワールドカップのアジア最終予選)でもメンバーに入り、スーパーサブとしてスピードを活かしたプレーで切り札役を担った。
アジアの舞台で手応えを掴んだ一方で、課題も残した。それが決定力だ。ノックアウトステージ進出が決まって迎えたインドとのグループステージ最終戦は8-4で勝利したものの、先発出場しながら無得点。続く準々決勝のオーストラリア戦(3-1)ではチームの3点目を奪い、本大会出場に貢献したが、結局このゴールが大会唯一の得点となった。
そこからゴールへのこだわりを見直した。1点取れても、もう1点。常に満足せず、貪欲に上だけを見て走ってきた。家に帰っても父から「今日のお前なら3点じゃダメでしょ」と言われ、どれだけ結果を残しても天狗にならずに向上心を持ってプレーしてきた。
その成果が出る。同年11月のU-17ワールドカップで一気に耳目を集めた(後編に続く)。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
【画像】広瀬姉妹・ガッキー・本田望結! 初代から最新20代目の月島琉衣まで「選手権・歴代応援マネージャー」を一挙公開!