・地獄開始
ただ、そんな時間は1時間ちょっとで終わりを迎えた。胸が躍るどころか、腹の中が踊る。脳みそが踊る。世界が踊り出す。ぐらんぐらん揺れてまっすぐ歩けねェェェエエエ!
そう、時化(しけ)だ。湾から出た瞬間からだと思う。壁に手を当てて歩いても歩けないほど船がナナメになりだしたのは。ヤバイヤバイヤバイ! 『宇宙よりも遠い場所』みたいになってる!!
女子4人が南極を目指すアニメである『宇宙よりも遠い場所』。途中で時化で船酔いするシーンがあるのだが、アニメだから誇張してるかと思いきや、現実でもこんなレベルでナナメになんの? これ船転覆せんか……?
その時化の前ではシングルルームとか無意味だった。誰がこの中でテレビ見るねん! いい加減にしろ!!
ベッドに横になっていると酔いはしないのだが、揺れはマシに感じられたりはしない。ベッドごとスプラッシュマウンテンを滑っているようだ。そして5秒に1回くらい落ちる。一人部屋とか関係ねェェェエエエ!
100歩譲って上っていく時は良いとして、上り切った後に「行きすぎちゃったてへぺろ」みたいな感じで、引き戻されながら落ちる感覚がガチでキツイ。港の売店で酒売ってたけど、この中で酒飲むヤツ強すぎるだろ! いい加減にしろ!!
だが、最もいい加減にしてほしかったことは……
この揺れが14時間続いたこと。
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・地球を感じた
いつかヤバイところを通り過ぎるだろうと我慢していたら、進むごとに横揺れが加わったり「ドカーン!」みたいなスペクタクルな音も鳴り始めたりで10時間。ちょっとは休めや。常識ないんかい。
奄美大島で1度落ち着いたので、もう大丈夫かと思いきや、奄美大島からの4時間でもう1回来る。安心させといて襲ってくるの鬼畜すぎるだろ! もうええっちゅうねん! 空気を読め!!
誠に地球。クリスマス直前とかヤツには関係ない。地球のサイコパスっぷりを14時間肌身に叩きこまれている気分である。オーバーキルすぎるだろ! そして、夜が明けた──
5階の窓に潮がついてるってどういうことやねん。そこで甲板に出てみたところビシャビシャであった。むしろ生きてて良かったと言えるかもしれない。しかし、朝フェリーのスタッフさんに昨夜の揺れについて話を聞いたところ……
スタッフさん「あれは冬の時化ですね。この時期は毎日昨晩くらい揺れます」
──回答が剛の者すぎた。毎日あれの中で働くって傾きすぎだろ。花の慶次かよ。圧倒的なリスペクトを感じながら下船したところ、陸に降り立った瞬間の安心感が半端じゃなかった。人は大地を離れては生きていけない。そりゃラピュタも滅びるわけだ。
・たどり着いた先にあったのは
さすが日本一行くのが困難な道の駅と噂されるだけあって、軽く人生観が変わった気がする。母なる大地に感謝。今日も生きていることに感謝。圧倒的、感謝。感謝が頭の中でぐるぐる回って、なんだか世界も揺らめいている。
って、これは陸酔いか。極限状態の中、レンタカーで徳之島を走り散らかしていたところ道の駅が見えてきた。やっと着いた……。日本にこんなに遠い場所があったとは。そんな道の駅とくのしまは……
楽園に見えた。
遠い山。広がるサトウキビ畑の中を走る1本の道。そして、古びた電線。道の駅からの景色をバックに地元の子供たちがハシャいでいる。時間がゆっくり流れているかのような錯覚に陥った。
これも酔っているのだろうか? ひょっとしたらフェリーで困難な道のりを来なければ、なんてことない景色なのかもしれない。ただ、今の私はこう思わずにはいられなかった。「来て良かったなあ」と。
なお、徳之島は島自体が世界自然遺産に登録されている。つまり、この道の駅は世界遺産の中にある道の駅だ。そういった意味でもここから見える景色には価値があるのではないだろうか。
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・レストランが良い
したがって、道の駅の中も地域性を重視した内容。徳之島や奄美大島、沖縄土産も置かれている他、レストランの料理は「とくの島バーグ定食」や「島肴の漬丼」など、どれも手がかかっていて迷うレベル。価格は全て同じ1300円だ。
3人で1品ずつ注文して実物を見てみたところ、鶏飯を卵でとじた「鶏オム」に特にアイデアを感じた。オムライスの発想を鶏飯に用いたもので洋食と郷土料理のマリアージュと言える。
・真の地獄
ここら辺の「道の駅とくのしま」の内部については『拝啓、道の駅から』の動画もご確認いただけるとより分かりやすいだろう。素朴と言えば素朴だけど、ここはこれくらいがむしろちょうど良いように感じた。ただ、1つ絶望的なのは……
これからまたフェリーで15時間かけて帰るということ。そう、フェリーの状況を知らなかった我々は当然帰りもフェリーの予約をしているのである。ちなみに、帰りの便は本日の17時だ。地獄かよ。
道の駅の人に聞いたところ島民も普通は飛行機を使うらしい。飛行機だったら1時間ちょっとなんだって。なんなら東京からでフェリーで来たって言ったら若干引いていたくらいだ。
というわけで、日本一行くのが困難な道の駅に、わざわざ困難な手段で行った人になってしまった我々。言わずもがな、ここに来ようという人は飛行機で行くことをオススメしたい。
・今回紹介した店舗の情報
店名 道の駅とくのしま
住所 鹿児島県大島郡徳之島町花徳2206番地
営業時間 9:00~18:00
参考リンク:道の駅「とくのしま」インスタグラム(@michinoeki.tokunoshima)
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.