高校ラストイヤーのテーマは“ぶっちぎる”。サウサンプトン加入内定の高岡伶颯は「日本一」と「20ゴール」を目標に掲げて最後の大舞台へ【インタビュー後編】

 圧倒的なスピードと局面の打開力。シュートレンジの広さと決定力に加え、大事な場面で決め切れる勝負強さも持ち合わせる。日章学園の大エース高岡伶颯(3年)にとって、自身の未来を変える舞台となったのが、2023年11月のU-17ワールドカップだ。

 高校2年次で初めて迎えた世界大会。同年6月のU-17アジアカップの時と同じく背番号11を背負うと、初戦から結果を残す。0-0で迎えたポーランド戦の70分。小学校時代から親交がある盟友の名和田我空(3年/神村学園、G大阪加入内定)に代わって投入されると、77分に決勝弾。鋭いミドルシュートを右足で叩き込んだ。

 続くアルゼンチン戦(1-3)でも後半開始から出場してゴールをゲット。負ければ敗退となるセネガルとの3戦目(2-0)でも2ゴールを決め、3戦4発の大暴れでチームを3大会連続となるノックアウトステージ進出に導いた。

 ラウンド16のスペイン戦(1-2)は不発に終わったものの、残したインパクトは強烈。一気に株を上げ、帰国後に行なわれた冬の高校サッカー選手権では注目選手のひとりとして挑むことになった。しかし――。待っていたのは、非情な結末だった。

 昨年12月29日の選手権1回戦。名古屋高との一戦に先発した高岡は相手のマークに手を焼き、チーム最多となる3本のシュートを放ったものの、ネットは揺らせない。1-1で迎えたPK戦では2人目のキッカーを任されながら、まさかの失敗。勝利を逃し、2度目の選手権も昨年に続いて初戦で姿を消した。
 
「注目されて期待に応えられなかった。シンプルにそういう悔しさもある。だけど、一番は自分のプレーでゴールを決められなかったり、思うようなプレーができずにうまく表現できなかった。そこが一番悔しい」

 特大級の期待と注目を集めたストライカーにとって、高校2年次は飛躍の年になった一方で、最後は屈辱を味わった。このままでは終われない。迎えた高校ラストイヤー。高岡はキャプテンを任され、名実ともにチームを牽引する存在となった。今まで以上に結果を残す必要があるし、責任もある。春先からギアを上げるべく、シーズン開幕前にこんな目標を立てた。

「ぶっちぎる」

 圧倒的な成績を残し、プレーでも他の追随を許さない。さらなる高みを目ざし、高岡は新たなスタートを切った。春先から好調を維持し、ゴールを量産。機動力を活かした仕掛けはもちろん、裏抜けやクロスへの反応も磨きをかけ、左右の足に加えて、高打点のヘッドでネットを揺らすシーンも増えた。今までと同じく守備もサボらず、二度追い、三度追いは当たり前。仲間のために最前線で走り続け、2月の九州新人戦ではチームを3位に導く活躍を見せた。

 そして、迎えた3月下旬。大きな決断を下す。Jクラブから熱視線を送られるなかで、高岡は海外クラブのトレーニングに参加した。行き先はサウサンプトン。最初に話をもらった時、「どうだろう?」という疑念もあった。高卒で海を渡って活躍できるのか、言葉やピッチ外の環境はどうなのか。まだ見ぬ景色に想いを馳せた一方で、不安が少なからずあった。しかし、そんな後ろ向きな想いはすぐに消えた。

「行くからには絶対にオファーをもらってやる」。好奇心旺盛な男は覚悟を決めて渡英した。

【動画】高岡の3人抜きのゴラッソも! 選手権 宮崎県予選決勝 日章学園vs宮崎第一ハイライト
 与えられた期間は2週間。限られた時間のなかでアピールする必要があった。日本で味わったことがないほどの素晴らしい環境で、綺麗に整ったクラブハウスも、何面もあるピッチも全てが輝いて見え、高岡の野心をくすぐった。

 正直に言えば、この2週間でどれだけアピールできたか分からない。フィジカル面でも競り負け、ピッチ外でもコミュニケーション面を含めて戸惑いもあった。

「日本だったら言葉も通じるけど、海外は言語の問題もありました」と苦笑いを浮かべた一方で、それ以上に高岡はこの2週間で海外移籍に気持ちを強くした。

「本当に後悔しない選択をするのであれば、辛いことを乗り越えていかないといけない」

 新たな刺激を受けた高岡のもとにサウサンプトンからオファーが届いたのは6月の半ば。家族はもちろん、チームメイトで苦楽をともにしてきたMF南創太(3年/仙台加入内定)に相談した。そして、交流があった同じく九州出身のFW福田師王(ボルシアMG)にも話を聞いたという。

「師王君も高卒で海外に行って、厳しい環境に身を置いている選手。話を聞いて響くものがあったし、師王君は『後悔しない選択をしたほうがいい』と言ってくれた。話をした時はまだオファーが来ていないタイミングだったけど、『話があったら行けよ』と背中を押してくれたのは、本当に嬉しかった。師王君は自分の経験から『行けるなら行け』という言葉をかけてくれたんだと思います」
 
 覚悟を決めた高岡は高卒で海を渡る決意をし、残された高校生活でさらなる成長を目ざして肉体改造にも取り組んだ。しかし――。インターハイが始まる1か月前。高岡は負傷してしまう。6月29日に行なわれたU-18高円宮杯プリンスリーグ九州1部の福岡U-18戦。飛び込んできたGKを外した際に左膝を捻ってしまい、全治3か月と診断された。

 その影響でインターハイは精神的支柱として登録メンバーに入りながら、一度もピッチに立てずに終わった。チームも3回戦で敗退。怪我の回復は進まず、9月半ばにあったU-19日本代表のU-20アジアカップ予選にも参加できなかった。

 もどかしい日々を過ごしたが、それでも焦らずに今できることに取り組んだ。リハビリ中はサウサンプトンのOBで元日本代表の吉田麻也(LAギャラクシー)と言葉を交わす機会もあり、そうした日々を経て、9月下旬のリーグ戦で復帰。戦列に戻ってからは圧倒的なプレーで相手を凌駕し、得点を再び量産。選手権予選決勝では3人抜きのスーパーゴールを決め、チームを再び全国大会に導いた。

 残された舞台は選手権だけ。組み合わせ抽選会で高岡は目標として、チームの日本一と20ゴールという数字を掲げた。決してできないことを言ったわけではない。「プレッシャーを力に変えて、去年とは一味違うところを見せたい。目標として絶対20点取ります」。力強く宣言したストライカーの挑戦は始まったばかり。昨年の悔しさも力に変え、新たな歴史を作り出す。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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