保育士時代より年収は150万円ダウン
三原じゅん子こども政策担当相は保育士の給与10.7%の引き上げを提言したが、療育は対象外だ。関西で療育施設を25年運営する児童発達支援管理者のユウコさんは言う。
「保育士の給与10.7%の引き上げは、保育園や子ども園が対象なので、私たち療育施設は対象外なんです。定期的にいただいている助成金も補助金も0です。
強いていえば、義務化されている送迎車の安全装置設置にかかる費用の補助金が令和6年3月末までの申請で上限17万5000円もらえたぐらいです。(地域によりすでに終了)
ICTシステム導入時の補助金も地域によってあるようですが、上限は10万円ほど。保育施設は導入時に100万円ほど受けとることができていました。
保育園には施設整備のための交付金があったり、運営費(委託費)も補助金がありますが、児童発達支援や放課後等デイサービスにはありません。新規で開業する場合、私財を投入するしかありません。
PCや暖房設備を含む電化製品、通信、机と椅子、おもちゃ、療育教材、絵本などの設備や備品などをそろえるための補助金があると助かります」
おもちゃや教材は手作りのものが多く、絵本や機材もいただき物でなんとかやりくりしているという。
さらに、療育施設に勤務するヒトミさんはこう明かす。
「給与は手取りにして17万円ほどです。2年前まで勤務していた保育園の頃より年収は150万円ほど下がり、ボーナス、家賃補助などもありません。給与10.7%引き上げも、療育を入れていただけないのは悲しいです。
なんとか、子どもたちが安心、安全、健康で過ごすための最低限の助成をしていただけないかと日々願うばかりです」(前出・ヒトミさん)
少ない給与の中でも、療育で働く保育士たちには強い思いがある。
「保育園に勤務していた頃には、『もっと手を尽くしてあげたい』と思う子どもに対しても、集団の中で最低限の関わりしかできませんでした。当時は、ないがしろにされがちだった発達の遅い子どもたちや、悩む保護者の一人一人と向き合うことができているので、療育の保育士として働くことができて、やりがいと喜びを感じています。
今後、国では5歳児健診が行なわれるようになり、発達の遅れを指摘された子たちに向けてさらに療育の役割は増していくのではないでしょうか。療育の環境を整える取り組みをしてほしい」(前出・ヒトミさん)
(広告の後にも続きます)
5歳児健診は必要な制度なのか
こども家庭庁は「安心の就学へ『5歳児健診』」とうたい、24年12月より5歳児健診の義務化を発表した。しかし、現況の日本で5歳児健診を決行することは、保護者や子どもたちに不安を植え付ける行為なのかもしれない。
発達障がいに詳しい、お茶の水女子大学名誉教授の榊原洋一氏はこう警鐘を鳴らす。
「5歳児健診では発達障がいなどが疑われた場合、児童精神科などの診断のできる専門家の二次健診を受けるとうたわれています。しかし、専門家は足りておらず、初診までの待機時間が8ヶ月もかかるところがあります。この極端なリソース不足をどのように乗り越えるのか。
たとえ理念(早期発見)がよくても、それを実施する体制が整っていないところで制度化すると、混乱が起こるだけではないでしょうか。
例えば『発達障がいなどの可能性がある』と判定された子どもの親の多くが、専門家の診察を受けられずに不安の中で過ごさなければならない状況が生じることは明白です」
国が促す5歳児健診。そして、限られた児童精神科の診察を待つまでの間に受け皿になりうるのが療育施設なのだ。
このまま助成金、補助金0で本当に良いのか。環境を整えるための支援制度が検討されることを切に願う。
※「集英社オンライン」では、今回の記事に関連しての情報を募集しています。下記のメールアドレスかXまで情報をお寄せください。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com
X
@shuon_news
取材・文/ 山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班