サクサク天ぷらはポイントを押さえれば自宅で無理なく作れる / credit: Wikimedia Commons

家で揚げるとべちゃっとしがちな天ぷら。揚げたてはよくても、家族が揃って食べ始めるとサクサク感がなくなるという悩みがないでしょうか。

油の処理は面倒だし、油ハネで汚れるので、天ぷらは買ってくることにしている人も多いかもしれません。

ふわっとした所もありながらサクサクな天ぷらは匠のワザ。でもそれが自宅でできるとしたらどうでしょう。

実は天ぷらは科学の力で一定時間が経ってもサクサクの仕上がりにできるのです。

目次

サクサク天ぷらの秘密は衣のたんぱく質コントロールにあり家でサクサクの天ぷらを作るためのレシピと裏技では、調理実習!

サクサク天ぷらの秘密は衣のたんぱく質コントロールにあり

天ぷらが冷めるとべちゃっとしがちな原因はふたつあります。

まずサクサク天ぷらの秘密のひとつは、衣に含まれる水分です。

天ぷらの衣を作るのに水は不可欠ですが、揚げた時に衣からこの水分が抜けきらないと、時間が経つにつれて、べちゃっとした天ぷらになってしまうのです。

天ぷらに限らず、揚げ物は食材の水分を適度に抜きつつ加熱する調理法です。

揚げ物を油に入れた時、音とともに気泡が出てきます。あれは食材と、天ぷらなら衣も含めて、水分が抜けていく状態です。最初は大きかった気泡が、適度に揚がる頃には小さくなっているはずです。それだけ水分が抜けているという合図です。


天ぷらの気泡は熱で食材から追い出されている水蒸気/Credit:canva

そのため天ぷらは、衣に水分が多く残っているほど揚げた後でべちゃっとしやすくなるのです。揚げている時の気泡が細かく、うんと少なくなっているかどうかが衣に含まれる水分量の目安になります。

水分は油の温度が低いと抜けにくいですが、温度が高すぎると食材に火が通る前に焦げてしまいます。

そのため、食材の火の通りやすさに合わせた油の温度で、焦げないよう、衣の色を見ながら揚げていく必要があります。

もうひとつの秘密は小麦粉に含まれるたんぱく質の一種グルテニンとグリアジンです。


小麦粉にはグリアジンと細長いグルテニンの2種類のたんぱく質がある / credit: ナゾロジー編集部

グルテニンとグリアジンはグルテンになる元の物質です。水を加えて捏ねると網目構造になり、弾力を持つようになります。グルテンはパンを膨らませたり、もっちりさせたりする物質でもあります。サクサク天ぷらとは真逆ですね。

天ぷらの衣のメイン素材、小麦粉は水を加えて混ぜることでグルテンが形成されます。これが衣に必要以上の粘り気を出し、サクサク感を損ねてしまうのです。


小麦粉に水を加えて捏ねると、グルテニンは細長くつながり、そこにグリアジンが絡まって網目構造のグルテンになる / credit: ナゾロジー編集部

しかし、衣に小麦粉は不可欠。タネにしっかり衣をつけるため、多少の粘り気は欲しいですよね。では、どうすればいいのでしょうか。

ひとつは、衣に含まれるグルテンそのものの量を減らすこと。つまり、小麦粉の量を減らし、グルテンフリーの「粉」に置き換えることです。

グルテンフリーの「粉」には、米粉、雑穀粉、でんぷんなどがあるため、衣に使う小麦粉の一部をこれらに置き換えます。

市販の天ぷら粉の原材料を見ると、一番多いものが小麦粉、次がでんぷん、もしくはホワイトソルガム(白たかきび)となっており、小麦粉の一部がグルテンフリーの食材に置き換えられていることがわかります。

もうひとつのグルテン対策、それは、グルテンそのものが作られにくくすることです。

グルテンが作られにくくするために加えるといいのが「酸」。酢やレモン汁を、衣の味が変わらない程度に加えることでグルテンの生成を抑え、粘り気を出しにくくするのです。

しかし、この「酸」は衣の味に影響しやすいため、市販の天ぷら粉に酸が加えられているものは見られません。消費者から「酸味がある」とクレームがくるリスクを避けているのかもしれません。

こうした衣の材料の調整や、油の温度、揚げる時間などを総合して調理するのが「匠の技」というわけです。

市販の天ぷら粉は、こうした匠の技にできるだけ近づけるよう食材を調合しています。

天ぷら粉の中にはベーキングパウダーを含むものもあります。

これはベーキングパウダーが水分と出会って加熱されると二酸化炭素の気泡を生じることから、衣にサクサク感だけでなく、ややふっくらした感じを出すために添加されているものです。

サクサク感をメインにしたいなら、加えなくてもいいかもしれません。ここは好みの問題といえるでしょう。

市販の天ぷら粉を使っても、揚げた後で時間とともに天ぷらがべちゃっとしてしまうようなら、揚げ油の温度や揚げる時間を見直す必要があります。

また、一度にたくさんのタネを油に入れてしまうと、適温だったはずの油の温度が一気に下がり、衣に水分を多く残す原因になってしまいます。

天ぷら屋さんでは、揚げ油に一度にたくさんのタネは入れません。少ないタネをじっくり観察しながら揚げているのです。

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家でサクサクの天ぷらを作るためのレシピと裏技

ここまで、天ぷらをサクサクにするためのポイントを見てきました。

ひとつはグルテンを含む食材を減らすこと、次にグルテンの生成を抑えること。さらに、衣の水分をなるべく早く外へ出してしまうことです。

ここでグルテン対策と水分対策の両方を解決してくれる食材をひとつ挙げます。

マヨネーズです。

マヨネーズは塩味などをつけた卵と酢を油で乳化させたソースの一種です。酢と油は軽く混ぜても分離してしまますが、マヨネーズは分離せず、トロリと柔らかいクリーム状になっています。

これは、酢と混ぜ合わせた卵に、激しく拡販しながら少しずつ油を加えていくことで「乳化」させているため、分離しないのです。

すべての分子には分子間力という、互いに引き合う力が働いていますが、水と油の分子は結びつきにくく、水と油が接していると、水は水、油は油の分子と強く引き合うため、混ざり合いにくくなっています。

合わない人同士のことをよく「水と油」という、あれです。

この水と油の境目を「界面」と呼び、境界面をなるべく小さく、安定させようとする「界面張力」が働いています。


水と油は混ざりにくい。水分子と油分子の境界は界面という / credit: ナゾロジー編集部

この界面張力の働きを弱めて食品の水と油が混ざり合うことを「乳化」といい、界面張力の働きを弱めて水と油が混ざるようにする物質は「乳化剤」といいます。

マヨネーズは原料の卵の卵黄に、乳化剤の働きをするレシチンが含まれているため、酢と油がきれいに混ざり、トロリとしたクリーム状になっています。

食品中で水と油が乳化している時、水の中に油が粒子となっている場合を水中油型=O/W型(Oil in Water)で、マヨネーズがこれです。反対に油の中に水が粒子となっている場合を油中水型=W/O型(Water in Oil)と呼びます。

ここで天ぷらの衣について思い出してみましょう。天ぷらの衣からは、水分がなるべく早く抜けるほうがサクサク感を持つ天ぷらになることがわかりました。


マヨネーズを使った衣は乳化しているため、水がの蒸散が速い / credit: ナゾロジー編集部

衣の中の水分を一部マヨネーズに置き換えることで起きることは以下のようになります。

・マヨネーズの中の酸が衣の中でのグルテンの生成を抑える

・乳化された植物油が衣に分散→衣の中の水分を減らしている

グルテン生成を抑え、衣の水分を減らすのがサクサク天ぷらのキモです。

衣に小麦粉は必要です。でんぷんだけだと食材に衣がつきにくいだけでなく、粘度が極端に低いため衣が薄くなってしまい、天ぷららしさのない、から揚げのような料理になってしまうからです。

そこでグルテンの少ない薄力粉を使いながらグルテンの生成は抑えたいので、小麦粉の量の一部をでんぷんに置き換えます。

論文『天ぷらの衣のフライ特性に及ぼす澱粉の影響』によれば、水を160%、揚げ油の温度を170℃とした場合、衣からの水分飛散率を見た場合、トウモロコシでんぷんは70秒で水分飛散率が80%に達しています。

食材が食べられるよう加熱され、衣の水分が飛散する=天ぷらが揚がるということです。

水分飛散率が80%に達するために要する時間は、馬鈴薯でんぷん、いわゆる片栗粉で80秒、タピオカでんぷんでは約100秒、モチトウモロコシでんぷんでは100秒間揚げても、水分飛散率は50%を越えなかったという結果が出ています。

つまり、小麦粉を一部グルテンフリーな澱粉に置き換えるとしたら、トウモロコシでんぷん(コーンスターチ)が一番適切だということになりますね。

これでグルテン対策ができました。残り、気を付けることは

・揚げる食材に適した油の温度(高すぎても低すぎてもいけない。特に低すぎると水分が飛散する前に衣がたくさんの油を吸ってしまう)

・一度にたくさん揚げない(一気に油の温度が下がってしまうため)

となります。