2024年のパリオリンピックのバスケットボール決勝、アメリカ対フランス戦で、レブロン・ジェームズの上から豪快な“ポスターダンク”を叩き込み、一躍時の人となったフランス人フォワードのガーション・ヤブセレが、6シーズンぶりに復帰したNBAで奮戦中だ。
今月29歳になった203㎝・120㎏のパワーフォワードは、2016年のNBAドラフトでボストン・セルティックスから1巡目16位で指名を受け、17-18シーズンにデビュー。しかし2年間で74試合(先発5試合)、平均6.6分のプレータイムで2.3点、1.4リバウンドと戦力になれず、19年オフに解雇されていた。
しかし欧州に戻ってからの、とりわけ直近3年間のレアル・マドリーでの活躍や、オリンピックで残したインパクトが、彼にセカンドチャンスをもたらした。
オリンピックを終え、カリブ海に浮かぶサン・マルタン島でバカンスを楽しんでいたヤブセレの元に、フィラデルフィア・セブンティシクサーズからオファーが届いた。契約内容は1年210万ドル。ただ、シクサーズ入りには自分のポケットマネーから、サラリーを上回る250万ドルを契約解除金としてレアルに支払う必要があった。
それでもヤブセレは、「もうこんなチャンスはもう2度とない、と思って何の躊躇もなくイエスと答えた」とフランスメディアとのインタビューで語っている。
そうして舞い戻ったNBA の舞台で、彼はここまでの全28試合(先発10試合)に出場し、平均9.5 点、5.1リバウンドと、安定したプレーを披露している。
ジョエル・エンビードやポール・ジョージといった主力の負傷もあり、時にセンターを任される場面もあるが、オフェンス、ディフェンス両面でチームを助けるプレーに邁進している。
本人はそんなシクサーズでの役割を、「常駐のトラブルシューター」と呼んでいる。
「問題がある部分の助けになれるようにしている。この前は、試合直前にジョエル・エンビードがプレーしないこと、さらにアンドレ・ドラモンドも体調不良でプレーできないことがわかった。それで、彼らに代わって先発出場するために大急ぎで準備したんだ。今夜自分がマッチアップするのは誰か? その相手に対してどう攻め、どう守るのか? 特にインサイドのポジションは、僕にとってはより多くの頑張りが必要になる。けどプロとして、状況をコントロールするためには素早く適応しなければならないんだ」
今季のシクサーズは、エンビード、ジョージ、タイリース・マキシーのビッグ3がなかなか揃わず、その威力を発揮できていない。
そんななかでイースタン・カンファレンス11位(11勝17敗/勝率39.3%)と苦戦しているものの、プレーインを狙える位置で踏ん張れているのには、ヤブセレのようなバックアッパーの奮闘による部分が大きい。
セルティックスでは成功したとは呼べない2年間だっただけに、今回のNBA復帰が決まった際には実力を疑問視する声もあったが、本人は「まだシーズンは長いから、ここまでの出来については語りたくないけれど、そうした人々の疑念に対する答えはある程度出せたと思っている」と自身のプレーに手応えを感じている。
勝利を第一に考える献身的なヤブセレは、チームにとって非常にありがたい存在だ。実際セルティックス時代も、遠征時にホテルで同部屋になったアル・ホーフォードや、エースのカイリー・アービングらは、当時のヘッドコーチ、ブラッド・スティーブンスに「チームにはガーションが必要」とたびたび直談判してくれていたという。
しかしそれでも、彼のプレータイムが増えることはなかった。NBAがそんな厳しい世界であることを経験しているがゆえに、ヤブセレは、「NBAは、一瞬ですべてが終わってしまう場所。だから、どんな状況でもそれを楽しんで、この冒険を少しでも長く続けられるように、コートでできることはすべてやろうと思っている」と前向きだ。
シクサーズはクリスマスゲーム、ヤブセレの古巣で昨季王者のセルティックスを118-114で下した。ヤブセレはこの試合で、2本の3ポイントを含む12得点、4リバウンドをあげ、勝利に貢献している。
ようやく揃ったビッグ3に献身的なシックスマンを携えたシクサーズは、ここから調子を上げていけるか注目だ。
文●小川由紀子
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