スタジオジブリの名作アニメ映画『もののけ姫』に登場する少女「サン」は、人間でありながら山犬に育てられ、「もののけ姫」と恐れられています。そんな彼女の心の奥には、誰も知らない深い葛藤が隠されていました。



サンの場面カット (C)1997 Studio Ghibli・ND

【画像】え…っ?似てる? こちらが実はサン(石田ゆり子)と同じ声だった「美女キャラ」です

切なすぎる?「土面」や「刺青」に込められた意味

 1997年に公開されたスタジオジブリの長編アニメ映画『もののけ姫』には、人間でありながら山犬に育てられた少女「サン」が登場します。彼女は森を侵す人間たちを憎み、人びとから「もののけ姫」と呼ばれ恐れられる存在です。そのサンというキャラクターには、深い心の葛藤や切ない矛盾が隠されていました。

 1997年10月に出版された『ロマンアルバム もののけ姫』(徳間書店)では、サンが、作中で主人公「アシタカ」以外の人間とは「一言も言葉を交わしていない」と、解説されています。

 たとえば、物語終盤、アシタカとサンが「シシ神」の首を巡って「ジコ坊」と対話するシーンが印象的です。「『話しても無駄だ』というサン。話してみてなんとかしようとするアシタカとは正反対だ。人間に対する憎しみとあきらめが入り混ざった思いなのだろうが…」と綴られているように、ジコ坊と話そうとしないサンの心境を思うと、切なくなる人も多いのではないでしょうか。

 また、同書では『もののけ姫』に登場するあらゆる文化を紹介した、「『もののけ姫』なんでも事典」という特集が組まれています。そのなかで、サンが戦闘のときに装着する「土面」について「縄文人の遺したもの、あるいは森の神に捧げられたものではないだろうか」と、興味深い紹介がされていました。

 さらに、人間でありながら森を破壊する人間を憎むという矛盾を抱えているサンが土面をつける行為は、「本来の自分を隠し、他の存在になること」とされており、サンにとって仮面は「救いなのかもしれない」とも解説されています。

 また、サンのトレードマークともいえる頬と額の「赤い模様」については、「刺青(いれずみ)」で、「仮面と同様、人間であることの枷を振り切るための工夫だったのだろうか」と説明されていました。土面や刺青など、サンが身に付けているものへの思いを知ると、彼女の葛藤が伝わってくるようです。

 2015年7月に出版された「ジブリの教科書10『もののけ姫』」(文藝春秋)には「ベルリン国際映画祭」でのインタビューも収録されています。そこで宮崎駿監督は、サンについて「サンは、自然を代表しているのではなくて、人間の犯している行為に対する怒りと憎しみを持っている。つまり今現代に生きている人間が人間に対して感じている疑問を代表しているんです」と語っていました。

「自然」を代表して人間に憎しみを抱いているサンが、実はある意味では「人類代表」だったという意外性が、よりいっそうサンというキャラの存在の切なさを表しているのかもしれません。

 このような、サンの抱えている複雑な心境やキャラクター性は、多くのファンの心をとらえているようです。ネット上では、「サンの美しい横顔を見ていると、なぜかすごく切なくなる」「刺青を彫った時、どんな気持ちだったんだろう」「サンの切ない儚さが大好き」など、サンに思いを馳せる声が多くありました。さまざまな感情を抱えたサンの奥深さは、『もののけ姫』の作品としての魅力を倍増していると言えます。