魚同士のキス。その理由は? / Credit:Wikipedia Commons
魚同士がキスをしているGIF画像や動画を見たことがあるでしょう。
可愛らしいと思いつつ、「どうしてキスするの?魚もキスで愛情表現するの?」なんて疑問に感じたことがあるかもしれません。
この魚同士のキスは「キッシンググラミー」に見られ、実は愛情表現とは真逆の行為です。
この記事では、キスする魚「キッシンググラミー」について解説します。
目次
キスする魚「キッシンググラミー」魚同士のキスは「愛情表現の真逆」の行為だった!?
キスする魚「キッシンググラミー」
魚同士でキスする「キッシンググラミー」 / Credit:Wikipedia Commons
このようなGIF画像を見て、少し笑ったことがあるかもしれません。
魚同士が口と口を合わせてキスをしています。
実はこれ、偶然のタイミングをとらえたものではなく、ある種の魚でたまに見られる行為です。
その魚とは、「キッシンググラミー(学名:Helostoma temmincki)」です。
スズキ目ヘロストマ科に分類される魚の一種であり、体長20cmほどで、東南アジアの淡水域に生息しています。
現地では食用魚(養殖されることもある)と見なされており、蒸したり焼いたりするなど、様々な調理法で食べられています。
一方、本来の生育域外にも移入されており、観賞魚としても高い人気を誇ります。
「キス」という独特の行動が人々の注目を引くため、日本、ヨーロッパ、北アメリカ、オーストラリアなど様々な地域の水族館で見かけることができます。
(左)野生型のキッシンググラミー、(右)飼育型のキッシンググラミー / Credit:Wikipedia Commons_キッシンググラミー
ちなみに、野生型と飼育型では色が異なり、野生型は灰色や緑色であるのに対し、飼育型では品種改良によってピンク色などの鮮やかな個体が作り出されています。
そして「キス」で有名なキッシンググラミーは、そのキスで使用する口や顎に大きな特徴があります。
キッシンググラミーの仲間には、「ドワーフグラミー」「チョコレートグラミー」などグラミーと名の付く魚が多数存在しますが、それらの魚が上向きの口を持っているのに対し、キッシンググラミーは前向きの口を持っています。
その口は前に長く突き出すことができるため、魚同士でキスをするのにぴったりです。
またアメリカ・アリゾナ州立大学(ASU)の2012年の研究では、キッシンググラミーの顎に存在する「追加の関節」に焦点を当てており、この関節が顎を開く角度を大きくし、捕食の効率を高めていることが報告されています。
では、その特徴的な口で行う「キス」行動には、どんな意味があるのでしょうか。
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魚同士のキスは「愛情表現の真逆」の行為だった!?
「キッシンググラミー」のキスは、実は闘争行為だった / Credit:Wikipedia Commons
キッシンググラミーでは、その名前の元になった「キス」のような行動が見られます。
2匹の個体が口を近づけ、数秒間押し合うのです。
これは人間のキスとは大きく異なります。
キッシンググラミーたちは、愛情表現ではなく、闘争行為としてこれを行うのです。
しかし、口で相手を傷つけたり、攻撃したりしているわけではありません。
専門家たちの中では、「儀式化された闘争行為」だと考えられています。
いわば「口を使った力比べ」によってどちらが強いかを示し合い、互いに傷つけることなく、グループ内での地位を明確にしたり、縄張り争いしたりしているのです。
腕相撲するかのように、「口による力比べ」で優劣を決めるキッシンググラミーたち / Credit:Canva
実際、キッシンググラミーがキスをしている時には、顎の筋肉の収縮が見られており、「力比べ」という表現は妥当です。
キッシンググラミーたちは、人間が腕相撲で優劣をつけるかのように、その発達した口で優劣を決めていたのです。
とはいえ、その傷つけない勝負「キス」が見られる環境では、キッシンググラミーが死に追いやられるケースもあるようです。
そもそもキッシンググラミーは縄張り意識が強い魚です。
そのため水槽などの狭い環境では、キスによる縄張り争いが生じたり、ある個体が他の個体をいじめたり追いかけたりする場合があります。
もちろん「キス」で致命傷を負うことはありません。
しかし、絶え間ない戦いやいじめによって生じる強いストレスが、ある個体を死に至らしめることはあるのです。
キッシンググラミーのキスは、私たち人間にとって微笑ましいものですが、もしかしたら彼らにとっては、「胃が痛くなるようなストレスフルな戦い」なのかもしれません。
参考文献
Helostoma temminkii Green kisser
https://animaldiversity.org/accounts/Helostoma_temminkii/
元論文
Are kissing gourami specialized for substrate-feeding? Prey capture kinematics of Helostoma temminckii and other anabantoid fishes
https://doi.org/10.1002/jez.1749
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部