ボルドーワインと並ぶフランスの最高峰ワインのひとつであるブルゴーニュワイン。基本は単一品種でワインを造り、「畑(区画)によってワインの味が違う」ともいわれるが、気候変動の影響などより、将来的に入手困難になるのではと危惧されている。
北へ北へと移動する生産地
気候変動が、世界のワイン産地に大きな影響を与えている。春の霜や夏の猛暑、干ばつなど異常気象が続き生産量は不安定な状況にある。
今年の仏・ブルゴーニュでは、地域によっては収穫量が7割から9割も減少したという報告もあり、ワイン愛好家の間で「ブルゴーニュワインの将来的な入手困難あるいは価格高騰」への不安が広がっている。
ワインと食のエキスパートでありワイン講師も務める株式会社 食レコの代表取締役、瀬川あずささんは、世界のワインの気候変動の影響について次のように語る。
「温暖化によってブドウの成熟が早まり、酸味や果実味のバランスが崩れることもしばしばです。さらに、豪雨や霜、雹(ひょう)の被害も増えています」
気候変動による異常気象の影響で、別の品種に植え替える必要が出てきたり、新たな交配種を作ったりする動きも出てきた。その一方で、生産者の間では「冷涼地」への注目が集まっている。イギリスやドイツ北部の、かつて“寒冷すぎる”と言われた地域が「ワイン生産に適した冷涼地」として、現在浮上しているのだ。
「イギリス南部では、温暖化の影響でスパークリングワインの大産地が生まれています。冷涼な気候が酸味を保持できるので、スパークリングワインに最適なのです。シャンパーニュ地方の生産者が、イギリスでスパークリングワイン造りを始める例も増えています。
またカリフォルニアでも、北部沿岸に位置するソノマ、中でも最西部のウエスト・ソノマ・コーストに愛好家は注目しています。冷涼な海風が、凛とした酸を持つエレガントなピノ・ノワールを産み出しているからです。このように、世界では気候変動の影響でワインの産地マップが大きく変化しています」(瀬川さん)
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作付面積を広げ、耐熱性のある品種改良を重ねて収穫量を調整
では気になるブルゴーニュワインの状況はどうなっているのか、ブルゴーニュ地方の生産者とワイン商を統括する団体、ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)代表、ローラン・ドゥロネ/ Laurent Delaunay(以下ローラン)さんに直撃した。
「2010年以降は毎年の変動が非常に大きくなっています。特に2021年は1981年以来最少の収量でしたが、翌年の2022年は平均を大きく上回る豊作となり、さらに2023年は過去最大の収穫量を記録しました。そして今年はまた大幅に減少しています。良い年と悪い年が交互に訪れるような、非常に不安定な状況がずっと続いています」(ローランさん)
収穫量は長い目で見ると右肩上がりだが、その要因は栽培面積の拡大であって、ヘクタールあたりの収量はむしろ減少傾向。やはり気候変動による影響なのだろうか?
「ブルゴーニュではまだブドウ栽培が行われていない適地を活用し、世界のニーズに応える体制を整えています。栽培面積の拡大は収量減少の解決策というより、世界の需要と供給のバランスを意識しながら品質維持を最優先に厳密に管理しています。
もちろん、気候変動の影響も避けられません。特に2021年と2024年の極端な低収量は、低温、霜や雹、多雨などが影響を与えています。そのため生産者たちは耐性のある品種の導入や収穫時期の調整など、柔軟な対応に取り組んでいます。こうした努力の積み重ねにより、ブルゴーニュワインは需要に応え伝統を守りながら進化し続けているのです」(ローランさん)