「平成」と伴走した最強の批評家、福田和也とは何者だったのか?

場を作り、守る

抗っているのは、書き手だけではない。「持続の意志」をもっとも強烈に表現しているのは、KKベストセラーズの名物編集者として知られる鈴木康成だ。鈴木は、雑誌『en-taxi』の創刊編集長だった壹岐真也と同じく、福田の「周縁的な仕事」(壹岐)を支えた担当といえるが、刻々と進行する出版不況の最中、リスクを恐れて誰も手を挙げなかった福田の選集を企画した。

〈ファンドによるリストラと売却、組合の分裂、またさらにファンドによるリストラと売却を経て、三度目のスポンサーが入り、会社経営は二転三転する。出版事業を主軸とする気のないファンド経営者たち。彼らのリストラのやり方は実に巧妙かつ持久戦を強いるものだった。それを私は「塹壕戦」などと呼び、組合委員長として、残る社員を奮い立たせようとしたけれども、その実力はなかった。
会社への展望を失った社員はみるみる辞めていく。組合員も大きく減少していった。どの経営陣とも対立を繰り返し、ベストセラーズ労組も結成から五年後には組合員にして正社員は私一人だけになってしまった。その後の三年間は一人組合員かつひとり正社員かつひとり編集者として、会社を支えてくれる契約社員や派遣社員の仲間とともに出版活動を継続(…)やらねばならないことは〝場を作り、守る〟ことなんだ〉【7】

この凄まじい状況下において、鈴木は『福田和也コレクション』の第1巻を刊行した。2021年のことだ。それから第2巻の刊行は許されず、3年が経った。

そして今年の年明け、KKベストセラーズ経営陣が〈出版事業を縮小し、その他の事業を拡大したい〉【7】として、鈴木が準備してきた書籍企画の停止を通告するや否や、彼はたったひとりの金と責任において会社を買い取る決断を下し、なんとKKベストセラーズの代表取締役社長兼編集長になってしまったのである。

頭だけで判断するなら、紙媒体にさして明るい未来はない。だが、これから鈴木がやろうとしていることは面白い。成功するにせよ、失敗するにせよ、面白いことだけは疑えない。たとえ破れかぶれでも、つまらないことには抗えと福田和也は書いた。

鈴木はその暴言を信じているし、評者も信じている。本書『ユリイカ 総特集・福田和也』に参加している町田康も、鈴木涼美も、豊田道倫も、新庄耕もたぶん信じているだろう。抗いつつ、血みどろでも機嫌よく生きるのだ。死んだ福田をただ悼むのではなく、今わの際まで面白くやるために生きようとする連中の熱に当てられてよかった。

文/藤野眞功

【1】〈ノンフィクション新刊〉よろず帳/第1回より引用。
https://shueisha.online/articles/-/170441

【2】『ユリイカ 総特集・福田和也』収録の佐々木秀一〈『奇妙な廃墟』と――シリーズ「1945:もうひとつのフランス」周辺〉より引用。

【3】『ユリイカ 総特集・福田和也』収録の風元正〈だれでもない者の「空白」――福田和也と小説〉より引用。

【4】『ユリイカ 総特集・福田和也』収録の中瀬ゆかり+井本麻紀+田中陽子〈機嫌よく生きる――福田組の愉快な日常〉より引用。

【5】『新潮』(2024年12月号/新潮社)収録の大澤信亮〈福田和也先生と私〉より引用。

【6】『ユリイカ 総特集・福田和也』収録の酒井信〈福田和也という人――奇妙な廃墟の「中の人」の信仰心〉より引用。

【7】『ユリイカ 総特集・福田和也』収録の鈴木康成〈福田和也とKKベストセラーズと私と。そしてカオスの果てへ〉より引用。