2025年のクラシックシーンを占う2歳中距離チャンピオン決定戦、ホープフルステークス(GⅠ、中山・芝2000m)が12月28日に行なわれ、単勝1番人気に推されたクロワデュノール(牡/栗東・斉藤崇史厩舎)が、6番人気のジョバンニ(牡/栗東・杉山晴紀厩舎)を突き放して快勝。堂々とクラシック最有力候補の座を高らかに謳った。
そして3着には、レース途中から先頭まで進出した17番人気のファウストラーゼン(牡/栗東・西村真幸厩舎)が入り、3連単の払戻金は29万3380円の波乱となった。
一方、2番人気のマジックサンズ(牡/栗東・須貝尚介厩舎)は16着に、3番人気のピコチャンブラック(牡/美浦・上原佑紀厩舎)は13着に大敗し、2歳戦の難しさを感じさせる結果となった。
圧巻の快走だった。ゲートが開くや、そつなく中団の7番手という好位置をとったクロワデュノールは、やや行きたがる素振りを見せたものの、やがて鞍上と呼吸を合わせてスムーズに追走。レースは1000mの通過が1分01秒4というスローペースとなり、それを嫌ったファウストラーゼンが向正面で後方から馬群の外を通って先頭にまで上がっていき、後続もそれに従って動き始める。
しかし、クロワデュノールはワンテンポおいてから3番手まで位置を押し上げて直線へ。すると、直線半ばでファウストラーゼンらを力強い末脚で先を行く2頭をのみ込んで先頭へと躍り出る。後続からはジョバンニが馬群をさばいて伸びてくるが、クロワデュノールはそれをものともせず、2馬身差を付けて快勝。理想的なレース運びによるパーフェクトな勝利だった。 クロワデュノールは、イクイノックス、ウィルソンテソーロ、ソールオリエンスらGⅠ(JpnⅠ)ホースを相次いで送り出しているキタサンブラックの3年目の産駒。6月の東京で新馬戦(1800m)を勝ち上がると、いったん休養。復帰戦となった11月の東京スポーツ杯2歳S(GⅡ、東京・芝1800m)を快勝してここへ臨んでいた。東京スポーツ杯では前走比+24㎏と、成長分を見込んでもやや太め残りだと思われたが、それでも重賞を勝ち切ったことで評価は上昇。本レースには前走比-8㎏としっかり絞り込んで、父譲りの見惚れるような漆黒(青鹿毛)の馬体を誇示していた。
クロワデュノールを管理する斉藤調教師は、「難しい展開になったなと思いましたが、その中で北村(友一)騎手が上手く誘導してくれましたし、馬もそれに応えて勝ち切ってくれたのは素晴らしいと思います。北村騎手にはクロノジェネシスの時に本当によくしてもらって、最後まで乗ってもらいたいなと思っていたところで大けがをして、最後まで乗ってもらえませんでしたが、あの時できなかった事をこの馬で一緒にやっていけたら最高だなと思います」と鞍上を賞賛した。
2020年の有馬記念(クロノジェネシス)以来、4年ぶりのGⅠ勝利となった北村騎手は、「(レース運びは)思い通りではなかったですが、馬を信じて行ったので、どんな流れになっても自分の競馬に徹して、強い競馬ができました。緩さが解消されて、より動ける態勢が作られていたなと思います」とコメントし、愛馬とスタッフを褒め称えた。
そして、「またGⅠを勝つことができました。本当にたくさんの方々に助けていただき、応援していただいて、またここに導かれたのだと思います。この場をお借りして、みなさんに感謝の気持ちを言いたいと思います。ありがとうございます」というと、こみ上げるものを堪え切れずに落涙。観客からは大きな拍手と歓声が送られた。
北村騎手は2021年の阪神競馬で落馬。8本もの背骨に骨折が見られる重傷で、復帰まで1年以上の時間を要した。その間に、愛馬クロノジェネシスは宝塚記念で2連覇を果たし、凱旋門賞へも遠征(7着)。悔しさを噛みしめていた。
実は北村騎手が治療・休養中に無理を言って電話取材をしたことがある。そのとき彼は怪我でクロノジェネシスを手放すことは仕方ないとしながらも、「クロノはまだ底を見せていません。彼女がどこまで強くなるのか、それを実感できないのが悔しい」と訴え、筆者も胸を締め付けられるような思いをした。それだけに、勝利騎手インタビューでの涙はぐっとくるものがあった。斉藤調教師が「あの時できなかったこと」とは、凱旋門賞遠征だと推察するが、来年はまず国内で好成績を残し、フランスへと飛び立ってくれるように心より願う。 2着のジョバンニは、勝負どころでごちゃついて、いわゆる「踏み遅れ」が生じての敗戦となったものの、上がり3ハロンはクロワデュノールを0秒1上回る34秒8を計時しており、ポテンシャルの高さを示す走りを披露した。伸びやかな馬体は距離が延びてさらに良くなる可能性を感じさせるもので、来春の日本ダービーに向かっての成長を注視したい馬だ。
3着のファウストラーゼンは、道中で思い切りよくまくって出た杉原誠人騎手の好騎乗が目立った。またこのレースから装着したブリンカーの効果も侮れず、直線でも集中力を切らさずにゴールまで走り抜いたところは評価できる。父は近年の欧州において傑出した存在だったフランケル(Frankel)の産駒、モズアスコット。その初年度産駒から活躍馬が出たことによって、より大きな注目を集めるだろう。
マジックサンズやピコチャンブラック、マスカレードボール(牡/美浦・手塚貴久厩舎)など大崩れした上位人気馬は、思わぬスローペースに走りを乱され、幼さを出したのが敗因だと見えた。まだここで見限らず、評価は来春に持ち越しとするべきだろう。
文●三好達彦
師走の中山競馬場で行なわれた今年最後のGⅠの裏で、電撃引退した怪物馬の「13」が再脚光
64年ぶりの3歳牝馬Vはなぜ完遂できたのか。敏腕トレーナーが語った「斤量の優位性」「主戦乗り替え」の思惑が復活走に導く【有馬記念】
京都競馬場で起きた、ただならぬ“異変”――。スマホ使用で即日『騎乗停止』になった岩田康誠騎手のジョッキーパンツを複数騎手が着用して出走