寒空の夜道をブルブル震えながら帰宅するなり、湯気の立ち昇るアツアツのお風呂に即ドッボンは絶対ダメ! そのまま「あぁ、極楽極楽~」と一息ついたのも束の間、帰らぬ人になりかねないのだ。急激な温度変化が人体に及ぼす悪影響をチェックする——。

 令和3年の厚生労働省人口動態統計によれば、65歳以上の浴槽における溺死は交通事故死の2倍以上。いわゆる「ヒートショック」と呼ばれる、突発的な心筋梗塞脳卒中が不幸な事故の原因となるケースも少なくない。特に冬は、夏に比べても心停止のリスクが約10倍にまで跳ね上がるという。

「気温の大きな変化によって、急激に血管が収縮あるいは拡張して病気を急性発症させてしまいます」

 と話すのは「公立学校共済組合関東中央病院」の心臓血管外科部長で「二子玉川女性のクリニック」の佐賀俊文医師。人間の血管は寒暖に合わせて縮んだり緩んだりをみずから調整している。

「気温が寒くなると、指先やつま先が冷たくなると思います。これは、人体の熱を外に逃がすまいと、手足などの末端にある末梢血管を収縮させて、なるべく体の中心部に血液を集めようとする現象によるもの。もちろん、体内の血液が集まってくるので、自然と血圧も高くなってしまいます。反対に気温が高くなると、熱を放出するために末梢血管が拡張されます。暑い場所に長時間いると顔が真っ赤になることは想像しやすいでしょう。血圧は上昇せずに通常を保つことになります」

 つまり、急に暑い場所から寒い場所に移動してしまうと、緩んだ血管が収縮して血圧がグッと上がってしまうというわけだ。

「お風呂で熱い浴槽から寒い脱衣所に移動する場合は要注意です。急激に血圧が上昇することで、大動脈に亀裂が生じて裂けてしまう『急性大動脈解離』、脳内の血管が破裂してしまう『脳出血』の症状を引き起こしかねません。同じく、急激な血流の変化で血管が詰まることで『心筋梗塞』のリスクも上がります」

 反対に寒い場所から暑い場所に移動するのにも用心が必要で、

「冷えきった脱衣所から熱い湯に入るとすぐに『のぼせた』状態になりやすいと思います。これは、血圧が下がることで脳に血液が行き渡らなくなるから起きる現象です。いわゆる『のぼせた』状態で、頭がボーッとするなどの意識障害やめまいの症状が現れるケースも。最悪の場合、意識を失ったまま溺れてしまうこともある。気を失いそうになる前にお風呂の栓を抜いてください」

 気をつけるべきはお風呂場だけではない。

「冬場の場合は、ゴミ出しで軽装のまま外気に触れたり、夜中にトイレで目が覚めて薄着のまま用を足したりと、ヒートショックを引き起こす“トリガー”が日常生活の中にあふれています。寒い朝に、外で荷物の積み下ろしをするのも危険です。冬場はどこにいるにも温かい服装が必須。繰り返しになりますが、急激な温度の変化が引き金になりますからね」

 少しの油断が取り返しのつかないことに繫がりかねないのだ。

【「ヒートショック」チェックシート(13)】

セルフチェックで8点以上なら近くの医療機関へGO!

(1)ここのところ睡眠が不足している 1点
(2)味の濃いものを好んで食べる 1点
(3)シャワーやかけ湯を体の中心からかけがちだ 1点
(4)湯船の温度は42度以上じゃないと気が済まない 1点
(5)浴室に暖房設備がない 1点
(6)入浴前に水分を摂らない(アルコール以外)1点
(7)喫煙習慣がある 2点
(8)自宅の脱衣所に暖房設備がない 2点
(9)お風呂でのぼせやすい体質だ 2点
(10)飲酒後に入浴することが多い 2点
(11)いずれかの生活習慣病に該当する 2点
(12)いびきをかいて寝ている 2点
(13)風呂上がりに頭がズキズキする(胸が痛い)6点
(9)歩くスピードが遅い 2点
(10)会話中に聞き直すことが増えた 2点
(11)家族からテレビやラジオの音量が大きいと注意される 2点
(12)今日が何月何日なのかわからない 2点
(13)周囲からいつも同じ話をしていると言われる 4点
(14)15分以上歩くことができない 4点
(15)1人では立ち上がれない 8点

(つづく)

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