「実は前妻に刺されたこともあって…」
―――井上さんは2度離婚を経験されていて、現在3回目の結婚をされているとのこと。
1回目の結婚は、性別適合手術を受けてすぐのタイミングでした。当時、仕事の関係でタイに住んでいたこともあって、タイ人女性と結婚したんです。でも、その女性が毎日100回も電話をかけてくるような方で……。包丁で刺されたこともあって、その傷痕が今でも残っています。そうした行為がどんどんエスカレートしていき、「このままでは殺されるかもしれない」と思い、4年で離婚しました。
2回目の結婚相手は日本人女性でしたが、その女性も「足音うるさいから静かに歩いて!」といったことを頻繁に言ってくるタイプで、いつもケンカが絶えませんでした。それが積み重なり、最終的にその方とも4年で離婚することになりました。
―――現在の結婚相手とは、いい関係を築けていますか?
今の妻とは、2022年3月に入籍しました。妻には連れ子の男の子(現在9歳)がいて、“バツ2”の自分が父親になることには正直、かなり勇気がいりました。
でも、子どもが「パパになってくれたらうれしいな」と言ってくれて。その一言がきっかけで、結婚を決意したんです。妻とは事実婚の期間も合わせると5年目になりますが、ケンカはまったくしないです。3回目の結婚で、ようやく幸せをつかんだと感じています。
―――息子さんは胃の絵さんがトランスジェンダーであることを知っているのでしょうか?
はい。息子が5歳のときに、僕がもともと女性だったことを告白しました。
当時、テレビ番組の『天才てれびくん』でLGBT特集をしていて、息子が「この子、もともと男の子(女の子)だったんだ」などと言っているのを見て、「ちょうどいいタイミングかも」と思い、伝えることにしたんです。
それで「パパもあの子と同じで、もともと女の子だったんだよ」って伝えたんですが、最初、息子は硬まっちゃって「難しいなぁ」って言っていました。
でも何時間か経ったあと、息子が「健斗、好きだよ!」って言いに来てくれたんです。その言葉を聞いたとき、彼なりにわかろうとしてくれているんだと感じました。
―――ふだんは家族でどのように過ごすことが多いですか?
日曜日は息子と過ごす時間を必ずつくるようにしていますね。ふだんは息子も僕も、僕がトランスジェンダーであることを忘れているように過ごしていて。一緒にご飯を食べたり、家族でお出かけしたり、本当に普通の家族と変わらない日々を送っています。
ちなみに、息子は僕のことを「パパ」と呼んでいます。
―――息子さんとは、ふだんどのようにコミュニケーションをとっていますか?
息子は、僕の影響で野鳥が好きなんですよ。この前も息子に「鳥の特別展に行きたい」って言われて、2人でお出かけしました。
僕は仕事の関係で朝方に帰宅する日もあるので、そのときは一緒に朝ご飯を食べることが多いです。
あと、息子と僕は好みが近く、お互い料理が好きで。最近、妻へのプレゼントとしてガトーショコラを一緒に作ったんですよ。それが、なんだかすごくうれしかったですね。
―――井上さんの夢や目標は何ですか?
ショットバーを2丁目で店舗展開するのが今の夢です。あと、ゆくゆくは2丁目で台湾料理屋も営みたいと思っていますね。
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性別適合手術により、まさに生まれ変わった井上さん。今後も自身の発信力を生かして、かつての自分と同じ悩みを持つ人々に救いの手を差し伸べてほしい。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班