「初期の2ちゃんねるのほうが知的水準が高かった」SNSで拡散される荒唐無稽なネタやデマに“マジレス”してしまう令和の陰謀論者

ジェンダー差別やミソジニーが、分断をさらに深める

Qアノン型の陰謀論やデマは、SNSを通じて日本にも逆輸入されている。

その象徴的な例が、「ワクチンはディープ・ステートによる人口削減計画である」といった主張。かつてのネット掲示板なら“ネタ”として消費されていたような荒唐無稽な話を、今では一定層が真に受け、拡散する状況が生まれている。

それに付随して、ミソジニーやLGBTQ憎悪、反リベラルの言説が持ち込まれ、国内でも新たな火種となっている。

こうした現象の背景には、SNSが持つ「即時性」と「双方向性」が大きく影響している。SNSは情報を瞬時に広める加速装置であると同時に、共感を基準に「ファクト」を選び取る仕組みを作り上げてしまった。

好きか嫌いか、共感できるかできないか、という感情により“真実”が判別されるようになり、かつてのネット掲示板で培われた「知的な遊び」とは異なる次元で、感情のエコーチェンバー(自分と似た興味関心を持つユーザーとつながって意見を発信すると、自分と似た意見ばかりが返ってくる現象)を生み出している。

SNS上での“真実”の共有は、単なる情報流通ではなく、深刻な社会分断をもたらしているが、「ジェンダー差別やミソジニー的言説が都市と地方の分断をさらに深めている」とモーリー氏は言う。

「都市と地方の間には、経済格差だけではない文化的な断絶があります。なかでも多様性や平等を重視する価値観は、都市部の上位レイヤーから浸透しつつありますが、地方ではいまだに性差別が色濃く残っている。

具体的には、セクハラやパワハラをするような人は東京の大企業では出世できませんが、田舎では娘に対して“早く結婚しろ”という親はいなくなりません」

地方出身の女性が逃げるように東京に出ていく背景には、そうした変われない地方の現実があるのだ。

「結果として地方に残った男性の意識は、同年代の東京の男性に比べてアップデートされづらい。取り残された男性は、その恨みを多様性に向ける。東京で多様性を重視する動きが進むほど、地方での反発が強まり、その感情がネット上で拡散される。そして地方の価値観のアップデートが遅れてしまう。東京と地方の分断にはあらゆる背景がありますが、ジェンダー差別やミソジニーがその分断を複雑なものにしていると思います」

差別、デマ、陰謀論、これらを悪意を持って言説をばら撒く人もいるが、それよりも厄介なのが、よかれと思って発信をし続ける人たちだ。もし家族や知人が陰謀論者になった場合、我々はどのようなことができるのだろうか?

「程度にもよりますが、思いとどまらせたり、諭すことは難しいですよね。ファクトチェックや全否定は、かえって陰謀論に傾倒してしまうきっかけになるので絶対にやめたほうがいい。

そういう人はおそらく孤独で不安な気持ちを抱えているだけなので、否定せず話を聞いてあげるなど、とにかく寄り添ってあげることが大切だと思います。たぶん、それくらいしかできることはないのかなと」

SNSが生み出す分断や陰謀論の拡散は、個人だけでは解決できない構造的な問題でもある。しかし、その構造を変える第一歩は、我々ひとりひとりがその「構造の一部」であることを自覚すること。

そして、分断が深まる時代だからこそ、意見の異なる人との対話を試みること。コスパもタイパも悪い、非常に面倒な作業が我々には求められている。

解説/モーリー・ロバートソン