世界でもっとも美しい数式 / Credit:canva

数学には様々な数式が存在しますが、その中に「世界で最も美しい数式」と呼ばれるものがあります。

もちろん、数式の美しさに一番ニ番と順位があるわけではありませんが、この式が「世界で最も美しい」と表現されることについて、表立って意義を申し立てる数学者はいないでしょう。

しかし、数式が美しいと言われても、私たちにはそれの何が美しいのかはよくわかりません。

ただ、その感覚を理解したいという気持ちはあります。

計算問題に嫌気がさして数学嫌いになってしまった人たちでも、数学にまつわる話には、何らかの不思議な魅力や美しさがあると感じているはずです。

今回は、そんな興味はあるけど数学の話なんてどうせ理解できないだろう、と落胆してしまっている人たちに向けて、「世界で最も美しい数式」がなんで美しいのか、数学者たちが感じる感覚だけでも理解できるように解説をしていきます。

注意してほしいのは、この記事は別に数学的に意味のある説明をするわけではないということです。

数式や、難解な数学の知識は使わずに、数学嫌いなんだけど数学の話は聞いてみたいという人に向けた数学のお話です。

もしかしたら、この記事を読み終えたとき、なるほどこの数式は美しいと感じられるかもしれません。

目次

この世界に姿がない数字たち数式とは優れた詩({pi})(パイ)はなぜ無限に桁が続いてしまうのか?

この世界に姿がない数字たち

数式は出さないと言っても、話の主役となる数式を見ないわけにはいかないので、まずはその数式を見てみましょう。

$$
e^{ipi} =-1
$$

これがよく世界で最も美しい数式と言われるオイラーの式です。

この式では右辺の({-1})を左辺に移動させて、( e^{ipi}+1=0 )と答えを({0})にしたバージョンもよく紹介されます。

この場合、答えが({0})に収まるのが美しいと言われたりしますが、この式の本質とはあまり関係がないので、この記事では上の({-1})になる形を基本として話していきます。

おそらくほとんどの人は、この数式を見ても記号ばかりで意味がわからないと感じるでしょう。

実際この中で私たちに馴染み深い数字は({-1})だけです。

では、他の記号の部分はなんなのでしょうか?

まず、({pi})は({-1})に次いで、私たちには馴染み深いものでしょう。

これは言わずと知れた円周率で、きちんと数字で書こうとすると

$$
pi = 3.14159265359…
$$

と、小数点以下の数字が無限に続いていきます。

スパコンの性能を試す際に何京桁まで計算できました、なんて話題を聞くことがある通り、この円周率({pi})はどこまで計算しても終わることなく無限に桁が続いていきます。

次に({e})ですが、これはネイピア数とか自然対数の底などと呼ばれる数学の定数です。

定数というのは決まった値を持っていて計算の中で変化することのない数字のことです。なので({pi})も定数です。

ただこの({e})も計算すると

$$e = 2.718281828459…$$

と無限に小数点以下の数字が続いてしまって終わることはありません。

こうした({pi})や({e})のような数字は無理数と呼ばれています。

これは「もうマジ無理…」と使うような無理ではなく、理(ことわり)が無い、つまり法則やルールがないという意味で、小数だけでなく分数でも表現することができない数字を指します。

じゃあ({dfrac{1}{3}})は無理数じゃないの? というと({dfrac{1}{3}})は無理数ではありません。これを計算すると

$$
dfrac{1}{3} = 0.33333…
$$

と確かに無限に数字が続きますが、ここにはずっと({3})が繰り返し続くという法則が存在しています。こうした数字は無理数になりません。

({pi})や({e})は、小数点以下の数字がどこまで言っても全く法則なく続いていて、分数でも表現することができないのです。

そして最後に({i})ですが、これは虚数と呼ばれる数字です。

虚数とは2乗すると({-1})になる数字を意味しています。ただ誰もが知る通りマイナスとマイナスを掛けると答えはプラスになってしまいます。

プラスとプラスを掛けても当然答えはプラスです。

2乗というのは同じ数字をニ回掛けるという意味ですから、普通に考えた場合なにをどうやっても2乗して({-1})になる数字というのはありません。

ただ、計算上2乗して({-1})になる数字は存在すると非常に便利だったため、数学のルールとして、2乗すると({-1})になるという想像上の数字を人類は作り出したのです。

そのためこの数字は英語ではimaginary number(イマジナリーナンバー)と呼ばれます。つまり虚数({i})は数学者にとってのイマジナリーフレンドみたいな数字です。

ここまでの話を聞いて、おそらくほとんどの人は、数式に含まれる記号がどういう値なのか説明されてもよくわからないと感じているでしょう。

しかしそこが重要な点です。

世界で最も美しい数式に含まれる数字たちは、この世界でまともな形で表現できないものばかりなのです。

私たちに馴染みのある({0})~({9})の数字で表現できない不思議な数字。それは何を意味しているのでしょうか?

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数式とは優れた詩


Credit:canva

変数だからという場合を除いても、多くの数式は本来数字を書くべき場所が記号で表現されていることが多くあります。

今回の主役となっている式にも、数字はほとんどなく記号ばかりです。

記号じゃ計算できないよ、と思う人もいるかもしれません。確かに学校の数学の授業は計算ばかりさせるため、数学とは計算するものだと思っている人が多いかもしれません。

しかし計算というのは数式の使い道の1つでしかなく、実際のところ数学は計算することが目的の学問ではありません。

数学は見えない抽象的な概念を表現する学問で、数式とはある種の文章であり、詩なのです。

この世界に確かに存在する円周率({pi})やネイピア数({e})、虚数({i})が、私たちのよく知る({0})~({9})までの数字で表現できないのは、これらの数字が({0})~({9})の数字が作られた時代より、もっとずっと後に見つかった新しい数字だからです。

({0})~({9})という数字はいわば、数学における言葉のようなものです。新しく見つかった数字たちは、古来からある言葉ではピッタリの表現が見つからなかった新しい言葉なのです。

ここで、少し話題を変えて私たちが普段から使う言葉というものについて考えてみましょう。

私たちの使う言葉も時代によって変化していき、新しい言葉がどんどん追加されていきます。

それは私たちが新しく発見した概念を表現するのに、ちょうどいい言葉がなかったためです。

例えば「愛」という言葉は、現代では英語のLOVEという意味で使われていますが、実はLOVEに該当する概念は、明治頃の日本には存在していませんでした。

もちろんLOVEが示す気持ちを日本人が知らなかったわけではありません。しかしこの概念を表現する言葉は持っていなかったのです。

江戸時代は「愛してる」なんて表現はなかったのです。

そのため「I LOVE YOU」を日本語にどう翻訳したらいいでしょうか? と学生に聞かれた夏目漱石は「月が綺麗ですね」でいいんじゃないですか? と洒落たことを言ったのです。

最終的にLOVEは、仏教用語の「愛」という文字を当てて表現することになりました。これは円周率を({pi})というギリシャ文字で表現しようと決めたのに近い感覚です。