2025年1月1日、地上波初放送となる『映画 おそ松さん』にはメタなギャグやSnow Manのメンバーの活かし方など、原作をリスペクトした「実写化成功」と思えるアプローチがされている一方で、大問題と言わざるを得ない特徴もありました。
実写映画『おそ松さん』キービジュアル (C)映画「おそ松さん」製作委員会2022
【画像】え…っ?何で「チビ太」役似合うの? こちらが実写『おそ松さん』でまさかのキャスティングをされた「超絶美少女」です(3枚)
原作を大いにリスペクトしたアプローチ
2022年公開の映画『映画 おそ松さん』が、テレビ東京にて2025年1月1日25時40分より、地上波初放送されます。
原作となるのは、赤塚不二夫先生のマンガ『おそ松くん』の6つ子たちを、自堕落なニートの大人たちに仕立てたアニメ『おそ松さん』です。女性中心に大きな人気を博したアニメの実写化で、超人気のアイドルグループのSnow Manの全員を迎え入れ、3次元からの人気をさらに獲得しようとする、割り切ったコンセプトともいえるでしょう。
実際にSnow Manのメンバー9人それぞれが個性豊かなギャグキャラクターの「おそ松」たち6人を演じている様が素晴らしく、「3人余っているじゃねーか!」というツッコミどころまで、後述する驚きの方法で解決する様には感動すらありました。
ただ、でき上がった本編はなるほど実写化に成功していると思える一方、さすがにそれはどうなんだ? と思える問題点があるのも事実です。それぞれの理由を記していきましょう。
※以下、『映画 おそ松さん』の一部内容に触れています。
実写化そのものをイジるメタギャグ
本作の最大の特徴といえるのは、「実写化そのもの」をイジるメタフィクション的なギャグです。冒頭からおそ松さんたち6つ子が「なんか実写だとちょっと生々しいな」「やりにくいなあ実写、そもそも実写までしてやるような話じゃないし」「あんまり出だしで実写実写言うなよ!もともと無理のあるのは承知の上なんだから!」などと、まさに観客が思っていることを代弁してくれるのです。
しかも、本作のメインの話になる「はず」だったのは、「息子と瓜ふたつのおそ松を養子にしたい」と望む大企業の社長が現れ、顔が同じ6つ子たちが養子になるべく醜い争いをするというものでした。もちろんSnow Manのメンバーは実写ではそれぞれ顔そのものが違うのですが、劇中では強引に「同じ顔という設定」だと納得させる場面もあるのです。
つまりは、実写化における課題、たとえば「コスプレ感」や「生身の人間が演じるからこそのギャップ」を、開き直ってギャグにしているわけです。それは福田雄一監督の映画『銀魂』や、同じく英勉監督であれば『ヒロイン失格』にも通じるそのアプローチでした。
推しそれぞれの違うジャンルでの活躍を一気に見られる
さらに感心させられたのは、Snow Manのメンバー6人(向井康二さん、岩本照さん、目黒蓮さん、深澤辰哉さん、佐久間大介さん、ラウールさん)が、さまざまなジャンルの作品の主人公として活躍することと、残りの3人(渡辺翔太さん、阿部亮平さん、宮舘涼太さん)が映画オリジナルの「物語終わらせ師」役という、聞いたことがなさすぎる役に扮していることです。
そして、メインの大企業の養子になるための6つ子それぞれのバトルが、なぜかスパイアクションもの、ラブストーリー、『カイジ』的なギャンブルものなどへと展開していきます。Snow Manのファンにとっては、推しがそれぞれのジャンルの主人公となっている姿を、この映画1本で摂取できるお得感もあるでしょう。
とはいえ、それぞれがメインの話からズレてきているので、劇中では「チビ太(演:桜田ひより)」「トト子(演:高橋ひかる)」「イヤミ(演:前川泰之)」から、「話変わってきてんぞ!」「いやこれ何が始まってんの!」「これ以上関係のない物語を広げられたら、本編の収集がつかないザンス!」とツッコまれます。
そこで登場するのが3人の「物語終わらせ師」であり、それぞれの話を無事エンディングまで持っていけるために奮闘するという、ぶっ飛んだアイデアが持ち込まれていました。
もともと原作の『おそ松さん』は、メタなギャグはもちろんさまざまな作品の「パロディ」がオンパレードで、物語そのものが「カオス」になっていくのも魅力的な作品でしたし、そのまた原作のマンガ『おそ松くん』も「ドタバタ」なギャグマンガでした。映画で「ハチャメチャすぎてもはやなんでもあり」になっていく点は、むしろ原作を大いにリスペクトした結果ともいえます。
アニメ『おそ松さん』メインビジュアル (C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
(広告の後にも続きます)
ハチャメチャにし過ぎた問題点も
良くも悪くも「終わりそうで終わらない」
ここまで実写映画版『おそ松さん』の美点を述べてきましたが、残念ながら大問題と言わざるを得ないことがあります。
それは、前述した「メインの物語から離れたジャンルの話を終わらせようとする」流れが本当になかなか終わらないため、人によっては本気でうんざりしてしまうことです。「これキリねぇぞ」「撤収撤収!」などとツッコんだり、感動的な場面かと思いきやギャグで落としたり、「静かに揺れた~僕の心~」という挿入歌などが繰り返しすぎて、さすがに飽きてしまったり、悪い意味でマジメに観る気をなくしたりする人も多いのではないでしょうか。
劇中でもこの流れは「茶番」として描いている、そう感じることも作り手も想定していると思うのですが、いくらなんでもその茶番が長すぎます。Snow Manのメンバーそれぞれが熱演している、スタッフが美術や演出もちゃんと作ってあるのにもかかわらず、それらを意図的にせよ「どうせギャグで落とす」「どうせ茶番になる」と観客に思わせてしまっては本末転倒、それぞれのジャンルやSnow Manにも失礼なのでは? とも思ってしまいました。
そこは「終わりそうで終わらない茶番」だけに始終するのではなく、それぞれのジャンルの話を、本当に感動的なものにするための目的を示したり、もっとはっきりとメインの物語にからんできたりする、といった工夫が必要だったのではないでしょうか。
さらに、クライマックスでは物語上の流れを安易にどんでん返ししすぎている印象で、せっかくの『おそ松さん』らしい「なんでもあり」なコンセプトさえも、悪い意味で「付き合ってられない」「どうでもいい」と思わせてしまうレベルに到達してしまっていると思うのです。
「登場人物がほぼ全員クズ」や推しのハマりっぷりはやっぱり楽しい
そんな問題点がありつつも、やはり豪華なキャストたちが、開き直って楽しそうにハチャメチャな内容の『おそ松さん』を全力で演じきっているのは、他にはない魅力でしょう。
「登場人物がほぼ全員クズ」という映画『アウトレイジ』の「全員悪人」よりもひどい(褒め言葉)状況が実写で良い意味で生々しくなっており、初っ端から向井康二さん演じるおそ松が「脱糞しかける」「放尿する」というとてもアイドルとは思えない姿に良い意味でドン引きしします。
また、高橋ひかるさんのトト子の暴言が板に付きすぎているほか、桜田ひよりさん演じるチビ太に至ってはその姿を見た瞬間に爆笑してしまうほどでした。トド松役のラウールさんが6つ子たちが並ぶ場面で、その190cm超えの身長をごまかすためか「首をすくめている」姿もなんだかいじらしくなります。
本作の菅原大樹プロデューサーは、アニメ『おそ松さん』を実写映画を企画した意図として、「コロナ禍の閉塞感といった気持ちを一瞬でも忘れ、何も考えずに笑えるような作品を制作したい」「Snow Manの公式YouTubeチャンネルをでの無邪気なやり取りや、お互いのことを想っている様子は見ていて本当に微笑ましくて、まさに『兄弟』そのもの」と感じたことなどを語っています。
なるほどその通りの「ただ笑える」「兄弟っぽいSnow Manメンバーそれぞれのわちゃわちゃ感」を楽しめる内容でした。ここではもう、前述した終わりそうで終わらない、「もういいよ!」な印象も、いっそ楽しんでしまうのがいいかもしれません。