悲惨さを招いた原因は自分にもある
――話は少しずれますが、連合赤軍にいた吉積めぐみさんのためにジョン・レノンのサインをもらったといううわさもありますが……。
1971年にカンヌ映画祭に行ったら、そこにジョンと(オノ・)ヨーコがいたんですよ。僕はもともとヨーコさんと知り合いだったけど、わざとミーハーみたいに「ビートルズのジョンだ! サインしてー」って近づいて行って、色紙のサイン書いてもらって、それをめぐみさんにあげたんです。
彼女が亡くなったときには棺にそのサインも納めました。後から、「売れば何億にもなる」って教えられたけど、「もう焼いちゃったから」って言ってやりました。
――このインタビューは新年に公開されますが、今の日本の状況を見て、なにか思うことはありますか?
85歳にしてまだ青年気分でいる俺に言わせると、政治は政治屋に任せとけ、口出すなっていう状態が30年続いたわけでしょ? それ以前の、高度経済成長から能率主義の管理社会になったあたりから生きづらいものになっていたけど。
自分が30年ぶりに娑婆に出てみると、それがさらに息苦しいものになっているって感じた。
僕、放浪老人みたいに、コンビニの横に座ってる若いやつに話しかけたりしていたんですよ。警察か補導員かと思われて警戒されたけど(笑)。
それで、話を聞いてみると、彼らは日々の生活での行き詰まりとか感じてないんだよね。今の状況は誰々のせいとか政治の問題だって考え方をしない、もうちょっと真綿で包まれた状態というか、そう思わないと生きていけない環境なんだろうね。
闇バイトとかに引っかかるのも、危機感の触感みたいなものが絶たれているからじゃないかな。その悲惨さを招いた原因は自分にもあると思っているから、若者が自前の触覚で生きられるようにする、というのがいまの私の映画作りのテーマなんです。
いまも撮りたいテーマが2つ、3つあるんだけど、予算面で止まってるんだ。
――最後に、85歳にして元気な健康の秘訣はなんでしょう?
酒も煙草もやめないことだね。それ以外、なんにもないよ。
取材・文/高田秀之 撮影/杉山慶伍
〈作品詳細〉
『逃走』
監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025
配給・制作:太秦 製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com