〈箱根駅伝・早稲田復活へ〉花田勝彦監督がつくる「強い早稲田」への道…「監督就任後、まず最初に“練習メニューを白紙”にした」理由とは

脈々と受け継がれてきた伝統でも意味がなければアップデートする

私が駅伝監督に就任して最初にやったのは、練習メニューをいったん白紙に戻すことだった。

個別に話を聞きながら、各選手の状態を確認して、まずは確実にやれる基礎的なことから始めることにした。

具体的には、ポイント練習(強度の高い重要な練習)の強度を落とし、余裕をもって練習をこなせるようにした。

また、ポイント練習とポイント練習の間の「つなぎ」で行っていたウエイトトレーニングやサーキットトレーニングも中断し、その代わりにベーシックな補強とジョグをしっかりやるかたちに変えた。

朝の集団走は、箱根で優勝した頃の練習を参考にして、大学周辺のアップダウンを使ったかなりハードな内容が週に4回も組まれていた。

しかし、実際にその練習をちゃんとこなしている選手は数えるほどしかいなかった。たしかにこの練習をこなせれば、強くなるだろう。

だが、できなかったら意味がない。ケガが多い原因は、練習にばかりあるわけではない。

栄養面に関しては、自分が教えるよりも、専門家に説明をしてもらったほうがいいと思ったので、交流のあった管理栄養士に個人面談をしてもらった。

ウォーミングアップの方法も変えた。早稲田の朝練習は、全体で集合し挨拶をしたあとに体操から始まるが、私が学生だった頃からやっていた簡易な準備体操が、30年経っても変わらず行われていた。

感慨深いものはあったが、競技レベルが格段に上がった今の時代には合わないと感じた。受け継がれてきた伝統かもしれないが、意味のないものであればアップデートする必要がある。

そこで、交友のあったフィジカルトレーナーに指導してもらって、可動域の拡大や動的ストレッチを意識したプログラムに変えた。

故障を予防するうえで必要なアイシングやストレッチ、セルフマッサージなどケアの面も、意外にきちんとやっている者が少なくて驚いた。

そこで、トレーナーを招いて講義をしてもらい、また私が寮に泊まった際に学生を集めて、実際に私も混じってペアマッサージを教えたりもした。

故障の原因は、栄養バランスの崩れとケア不足によるところも大きいが、睡眠不足もかなり影響していると感じていた。

寮に泊まってみると、食堂で深夜近くまでレポートを作成していたり、高田馬場キャンパスに通うために、朝6時の集合よりも前に練習を始めたりする学生がいるのをよく見かけた。

そのなかには主力選手もいて、平日は授業で忙しく、午後の本練習に出られないので朝練習の時間にポイント練習をやっていた。

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休むことも大事な練習の1つ

疲労回復の大きな要素の1つである睡眠時間が明らかに足りていないように感じた。そこで、土日は思い切って朝練習をなしにして、ゆっくり寝かせて、午前もしくは午後の本練習1回のみにした。

また、合宿所では1年生が朝4時台に起きて当番の仕事をやっていたが、これも寮監の方や学生幹部とも相談して遅くし、長距離に関しては朝練習に遅れて参加しても構わないかたちにした。

競技者としての経験や指導者となってからの体験で、強い選手になるためには、「練習」「栄養」「休養」の3つの要素を、正三角形に近づけることが大切だと感じていた。

いくら良い練習ができても、十分な栄養補給と休養を怠ればケガや体調不良につながり、自分が描いていたようには成長できない。

早稲田には真面目にコツコツ取り組む選手が多く、放っておくとやりすぎてケガをしたり、オーバートレーニングになったりする者が多い。

そうした選手には、「休むことも大事な練習の1つ」と伝えている。

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監督が変わるということは体制も変わるということだ。

それにともなって変革も起こるが、割とみんな素直に受け入れてくれたように感じた。選手たちも、なかなか結果が出なくて、藁にもすがる思いだったのかもしれない。

そのほかにも変えた点はたくさんある。

競走部のホームページは、これまではOBの方が長年、ボランティアで運営してくださっていた。

情報量豊富で、実は私も早稲田の選手情報を集める際にはとても重宝していたが、これも予算を組んでスマートフォンでも見やすいデザインに一新した。

いちばんの狙いは、より多くの高校生に見てもらって、勧誘につなげるためである。

また、選手勧誘に行った際に、大学のパンフレットと一緒に渡せるように、競走部オリジナルのパンフレットを作成した。

今はデジタルの時代だからと反対もあったが、いざ作成してみると、その場で説明しながら手渡しすることができ、またシンプルながらかっこいいと好評だった。

さらに、これまでの早稲田大学の伝統を考えると大きな決断だったが、競走部監督の大前祐介君とも相談し、公式ウェアを今の時代に合わせて学ランからオーダーメイドのスーツに変えた。

メーカーの方と相談し、就職活動でも着用できるデザインを採用して、ネクタイは一目で早稲田とわかるエンジのバーズアイ(鳥目織り)にした。

練習で着用するウェアにもこだわっている。

メーカーだけに任せっきりにせずに、実際に展示会に足を運んで、いろいろな素材や形状を手に取り、より最適なものを見つけて、打ち合わせするようにしている。