数ある宇宙世紀のMSのなかでも、特に異彩を放つ姿を持った「アッグシリーズ」と呼ばれるMS群、その独特のデザインには大きな理由がありました。その隠された過去を紐解いてみましょう。



アッグシリーズのガンプラ化一番手。「1/144 アッグガイ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

【画像】「アッグ」シリーズというけれど…こちらが露出はいまひとつ控えめな「アッグ」です(8枚)

チームで行動するために誕生した「アッグシリーズ」

『機動戦士ガンダム』に登場するMS(モビルスーツ)において、ひときわ異彩を放っているのが「ジオン公国軍」の水陸両用MS群です。そのなかでも特徴的な機体が多いのが「アッグ」シリーズでしょうか。

 アッグシリーズは、「地球連邦軍」の本部「ジャブロー」攻略のみを目的として開発され、「特務用MS」とも呼ばれています。兵装と機能を分担し、複数の機体で目的を達成するために開発されました。そのため、正確には水陸両用MSではありません。湿地帯用MSといった方が正しいでしょうか。

 このアッグシリーズの先鋒が、ジャブローへの進入路を両腕のドリルで掘削するという、先導の役目を担った「EMS-05 アッグ」です。ドリルのほかにも、両肩のカッターで岩盤を採掘、モノアイ下部にあるレーザー・トーチで岩盤を溶解するといった装備で、戦闘よりも土木作業に特化したMSでした。

 僚機の援護および中距離支援を担当するのが「MSM-04G ジュアッグ」です。両腕が3連装320mmロケット砲になっているほか、胴体には固定式のビーム砲が4門、装備されていました。

 その支援を受け、基地内部に侵入して白兵戦を仕掛ける役割を担うのが「MSM-04N アッグガイ」と「MSM-08 ゾゴック」です。アッグガイは頭部バルカン砲が2門、ヒート・ロッドが片手に2本ずつ合計4本も装備という、白兵戦に特化した機体でした。

 一方のゾゴックは、もともとは「MSM-07 ズゴック」の系列機でありアッグシリーズではないものの、同シリーズとの連携を考慮して再設計されたようです。最大の武器は頭部と腹部に装備されたブーメラン・カッターでしょうか。使い捨ての武器ながら、一説にはガンダリウム合金も切り裂くといわれています。このほかにも両腕はアーム・パンチという伸縮可能な格闘兵装でした。

 近年になり、マンガ『機動戦士ムーンガンダム』では、月面戦闘用に開発された「EMS-13 アッグジン」というMSが登場しています。このアッグジンは「アッグ」の名前を持ちますが、厳密にはシリーズではありません。しかし、そのルーツはアッグシリーズと同じく「MSM-04 アッガイ」をベースにしたMSでした。

 アッグシリーズはマイナーな部類に入るMSながら、映像作品にも登場しています。

 アッグは今のところ、宇宙世紀の映像作品には出ていませんが、TVアニメ『ガンダムビルドファイターズ』にガンプラとして出演していました。

 TVアニメ『機動戦士ガンダムZZ』で、アッグガイとゾゴックは「スタンパ・ハロイ」所有のMSとして登場、OVA『機動戦士ガンダムUC』ではジュアッグとゾゴックが、ジオン軍残党として出演を果たしています。

 しかし、本来の活躍の場である『機動戦士ガンダム』にアッグシリーズは登場していません。なぜならアッグシリーズはいわゆる「ボツメカ」と呼ばれる、アニメ本編には登場しなかったMSなのです。

 そのようなアッグシリーズがどうして、こんにち知られるほどの存在になったのでしょうか。そこには逆転人生とでもいうべき不思議な運命のめぐりあわせがありました。



『UC』での戦闘シーンは必見。「1/144 ジュアッグ」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

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アッグシリーズが表舞台に現れた理由とは

 アッグシリーズが世に出ることになったのは、放送終了直後に日本サンライズ(当時)が発行した「機動戦士ガンダム 記録全集4」に掲載されたことがきっかけでした。この記録全集で未公開資料として、富野喜幸(現、富野由悠季)監督のラフデザインと、メカニックデザインの大河原邦男さんによるクリーンアップ画稿が掲載されます。

 もっとも、この記録全集は一般の書店では販売されない通信販売専門の書籍だったことから、より一般的になったのはアニメ雑誌「アニメック第15号」(ラポート)に掲載されたことがきっかけでしょうか。ちょうど劇場版『機動戦士ガンダム』第1作目が公開される前の時期でした。

 そこから数年、アッグシリーズは幻の存在としてファンの記憶からも徐々に消えていきます。ところが、ふたたびスポットライトが当たる時がやって来ました。それが「ガンプラ」、いわゆるガンダムのプラモデルとしてです。

 これには、とある事情がありました。空前のブームとなったガンプラブームにより、アニメ版に登場したMSはすべてガンプラとして商品化されます。これによりラインナップは底をついたといっても過言ではない状況になりました。

 事実、MSに変わって、1/550スケールのMA(モビルアーマー)が発売されはじめ、「ドダイYS」や「ガウ攻撃空母」といったMS/MA以外の商品も販売されるようになります。さらに販売予定には「サイド7」といったものもラインナップされ、混迷を極めました。

 そこで注目されたのが、クリーンアップまでされながらアニメに登場しなかったアッグシリーズです。大河原さんによって模型用に再度クリーンアップされたアッグシリーズは、こうしてガンプラとして世に出ることとなりました。同シリーズで最初に販売された「1/144アッグガイ」は、1982年7月に出荷されています。

 この時期は劇場版ガンダム三部作もすべて公開され、ブームもひと段落したころでした。各社がポストガンダムとなる作品を模索していた時期で、ガンプラも一時期ほどの熱がなかったといえるかもしれません。

 そのような時に登場したアッグシリーズは、間違いなくガンプラのカンフル剤として大きく機能しました。そして、この「アニメに出てこないMSを商品化する」という展開は、翌年に始動するメカニックデザイン企画「MSV(モビルスーツバリエーション)」への橋渡しとなります。こんにち、アッグシリーズをMSVとカテゴライズすることがあるのは、この縁を考えると妥当かもしれません。

 こうして、アニメではNGとなったアッグシリーズが、奇妙な運命により日の当たる存在となったわけです。その後はアニメにも登場するわけですから、いまでいうところのリベンジを果たしたのかもしれません。