キン肉マン原作45周年、アニメ化40周年を記念した『愛と絆の原画展』が、2024年8月「池袋サンシャイン」で、同年11月には「心斎橋OPA」で開催された。『キン肉マン』最新87巻の発売を1月4日に控えたこのタイミングで、会場で販売された「公式図録」より、業界イチのキン肉マン好きで知られる事件記者が、キン肉マンの兄・キン肉アタルの素顔に迫る。(前後編の後編)
立てこもり犯は長い刃物を人質の少年の首に当てていた
〈長らく蒸発していたキン肉王家の長男アタル。その人物像を紐解くうえで欠かせないのが「超人血盟軍」結成過程の立ち振る舞いだ。旧西ドイツでスカウトを受けたブロッケンJr.、アシュラマン、バッファローマン、ザ・ニンジャの4人は、アタルの言葉に心を揺さぶられ、気になってアタル扮する新キン肉マン ソルジャーの跡をつけ始める。〉
ここからがアタルの真骨頂だった。4人の尾行を知ってか知らずか、アタル版ソルジャーはドイツの街を徒歩で移動中、立て籠もり事件に遭遇する。息子を人質に取られた母親が通行人に救出を懇願するも「警察に頼んだ方がいい」と正論で返されるばかり。たまりかねたブロッケンJr.が救出に向かおうとするが――。
その場にいた通行人男性が証言する。
「僕たちがオロオロしていると、後ろの方から地元の軍服超人(ブロッケンJr.)が飛び出してきたんです。すると、迷彩服のマスク超人(アタル)が、背中に目が付いているかのように、振り向きもせず『待て』と軍服超人を制止しました。
フェイスペイントをしたバンドマン風の立てこもり犯は、青龍刀のような長い刃物を人質の少年の首に当てていました。マスク超人は『犯人を刺激すれば子供の命が危ない』と軍服超人を諭したようで、彼は軍帽の下でハッとした表情を見せていました」
アタル版ソルジャーはおもむろに、立てこもり現場とは別方向にある塗料店へと歩み寄っていく。塗料店の老店主が振り返る。
「ワシは立て籠り事件に気づかず、外で作業をしておったんじゃが、そのマスク超人がやってきて、迷彩服の上着を脱ぎながら、置いてあったドラム缶入りの塗料を指して『オヤジ、このペンキは黒だな』と。そうだと答えると、マスク超人はいきなり上着をビリビリに破って、ドラム缶の中に浸したんじゃ。だが、本当に面食らったのはその後じゃった」
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警察の到着を待つまでもなく、凶悪事件を解決
アタル版ソルジャーの上着は、漆黒の牧師服に早変わり。さらに、分厚い聖書とロザリオまで出現した。瞬きする間に、今度はアタル牧師の両手に、籠いっぱいの食料が。アタル版ソルジャーは、千の術を持つ男といわれるザ・ニンジャ顔負けの〝マジシャン能力〟を披露したのである。
別の通行人男性の述懐。
「さっきのマスク超人が、牧師の格好になって現場に戻ってきたんです。立て籠もり犯に要求通り食料を持ってきたと伝えると、犯人は『神の使いである牧師様なら信用できる』と、彼が建物内に入ることを許しました。
周囲にはいつの間にか、マスク超人に諫められた軍服超人に加え、3つの顔と6本の腕を持つ超人(アシュラマン)、包帯を巻いたロン毛パーマの大柄超人(バッファローマン)、ジャパニーズコスプレの超人(ザ・ニンジャ)の4人が、ギャラリーに加わっていました。彼らは『なんて冷静で的確な判断力なんだ』と、マスク超人の行動に感嘆していましたね」
立て籠もり犯によるボディーチェックの際、アタル版ソルジャーの牧師服の胸元がはだけ、鍛え抜かれた大胸筋が露出。超人であることがバレてしまうが、接近してしまえばこちらのもの。アタル版ソルジャーは格闘の末、立て籠もり犯をナパーム・ストレッチで倒し、超人警察の到着を待つまでもなく、凶悪事件を解決してしまうのであった。
現地の超人大衆紙デスクが補足する。
「立て籠もり犯は、旧東ドイツ出身の超人ボックマンでした。公判記録によると、ドイツ統一前、東から西に亡命するも、定職に就けず、強盗に走ってしまったという悲しい背景があったようです。
アタル氏のナパーム・ストレッチは、残虐の神の憑依後、超人強度1億パワーとなった真ソルジャーを絶命させるほどの威力ですが、ボックマンに対してはかなり手加減していた模様。彼の胸には『A』の字も浮かんでおらず、一命をとりとめています。ボックマンは超人刑務所を出所後、更生して就職。現在は善行超人として真面目に生きていると聞いています」