ジムには同じ部位を鍛えるのにも色々な種目がある / Credit: 写真AC
スポーツジムに入会し、いざ筋トレをはじめようとすると、同じ部位を鍛えるのにも、複数の種目があることに気付きます。
例えば、太もも(大腿)の筋肉を鍛える種目であっても、スクワット、ハックスクワット、レッグプレス、45度レッグプレス、シーテッドレッグカール、プローンレッグカールなどなど、色々あります。
未経験者の場合、いったいどれからやったら良いのかと、途方に暮れてしまいそうです。
最近、ブラジル・ロンドリナ州立大学(State University of Londrina)のシリノ教授らの研究グループは、筋トレの種目のバリエーションがトレーニング効果に及ぼす影響を調べた研究結果を発表しました。
その研究とは、若い女性たちが週3回の筋トレを実施する際に、毎回同じ2種目を実施するのと、違う2種目を実施するのとでは、筋肉の大きさと強さの成長度合いが異なるのかを詳しく調べたものです。
その結果分かったことは、どちらのグループも同じぐらい筋肉が成長するということです。
本記事では、今回の研究成果に加え、筋トレを続けていくために大切な視点にも触れながら、筋トレ種目の効果について説明していきます。
なお、今回の研究結果は、『Research Quarterly for Exercise and Sport』に2024年10月10日付けでオンライン公開されています。
目次
バリエーションをつけなくても効果が得られる種目を変えると内発的動機が高まる?
バリエーションをつけなくても効果が得られる
筋トレの効果に影響を与える要因には、扱う重量(強度)や限界まで行うかどうかなど、様々なものがあります。
その中でも、今回の研究は種目のバリエーションに注目したものです。
ジムでの筋トレは、バーベルやダンベルを使ったフリーウエイト種目と、専用の機械を使ったマシン種目が主な方法です。
この際、例えば、もも裏(ハムストリングス)をターゲットにしたレッグカールというマシンにも、うつ伏せで行うプローンレッグカールや座って行うシーテッドレッグカールなど、いくつかの種類があります。
レッグカールにも種類がある(左はシーテッドレッグカール、右はプローンレッグカール) / Credit: 写真AC
同じ筋肉を鍛えていても、こうした細かい種目の違いは姿勢や関節の位置に影響し、刺激がかかる部位が微妙に異なります。
そのため、様々な種目を取り入れることで筋肉の成長にプラスになるのではないかと考えられますが、実際にはどうなのでしょうか?
この疑問に答えるため、シリノ教授らは70名の若年女性を一定群と多様群の2つのグループに分け、下半身の筋トレを行わせました。
一定群は、月・水・金曜日に45度レッグプレス(主に大腿四頭筋や大殿筋を鍛える)とステッィフレッグデッドリフト(主に大殿筋やハムストリングスを鍛える)を続けました。
一方、多様群は、
月曜日に45度レッグプレスとステッィフレッグデッドリフト、
水曜日にハックスクワットとプローンレッグカール、
金曜日にスミスマシンスクワットとシーテッドレッグカール、
と、曜日ごとに異なる2種目を実施しました。
トレーニング実験は10週間、週3回行われ、1回のトレーニングで各種目を2セット、10~15回の反復回数で限界まで行いました。
結果を見てみると、超音波検査で測定された筋肉の厚さは、太ももの前面、側面、後面のそれぞれについて、股関節に近い位置と遠い位置で細かく評価されましたが、グループ間に有意差はなく、どちらのグループも成長しました。
また、下半身の筋力も同程度に成長しました。
この結果に基づき、シリノ教授らは「実用的な観点から、筋トレやコンディショニングの専門家は、太ももの筋肉を大きくしたり強くしたりするために、バリエーションのある方法とない方法の両方を取り入れることができる」とまとめています。
つまり、バリエーションを持たせなくても、同じ種目を続けることで、その部位はしっかり成長できるのです。
では、本当に日々の筋トレを続ける上で、同じ種目をやり続けても良いのでしょうか?
次のページでは、種目を変えることの意外な効果について考えていきます。
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種目を変えると内発的動機が高まる?
2019年、スペイン・マドリード自治大学(Autonomous University of Madrid)に所属するフェルナンデス教授らの研究グループは、2年以上筋トレを続けている男性を対象としたトレーニング実験の結果を発表しました。
この実験では、2つのグループともに週4回、8週間のトレーニングを行いましたが、片方のグループは同じ種目(計12種目)を続ける一方、もう片方のグループは非常にユニークな方法で種目を選びました。
その方法とは、研究用に開発されたアプリを使って、80種目からランダムに選ぶというものでした。 ただし、上半身では押す種目と引く種目、下半身では前側を鍛える種目と後側を鍛える種目が均等になるよう配慮されています。
つまり、大まかに言うと、2つのグループの鍛えた部位は同じでしたが、片方のグループでは同じ種目を繰り返し行うのに対し、もう片方のグループでは毎回ランダムに種目が決まり、バリエーションがありました。
その結果、筋肉の厚さや筋力はほぼすべての指標で両グループとも増加しましたが、群間差が認められた指標は1つもありませんでした。
この結果は、シリノ教授らの研究結果と類似しています。
さらに興味深いことに、トレーニング期間の前後に評価された内発的動機のスコアが、様々な種目を実施したグループでのみ増加していました。
内発的動機とは、好奇心や探求心、向上心など、本人の内側から湧き上がるやる気や動機(モチベーション)を指します。
色々な種目にチャレンジすると内発的動機を高めることに繋がる / Credit: Canva
内発的動機の逆の言葉として外発的動機があり、他者の評価や成果に対する報酬・懲罰など、外部要因から生じるやる気や動機を指します。
外発的動機は時に強いやる気を与えることがありますが、長期間にわたってモチベーションを維持するにはあまり向いていません。
したがって、仮に筋肉の成長に対して直接プラスに働かなかったとしても、種目にバリエーションを持たせてトレーニングを行うことで、新しい動きや器具の使い方を学ぶ機会が得られ、トレーニングへのモチベーションが高まる可能性があります。
以上を踏まえると、何をやるか迷っている筋トレ初心者の方は、種目は少なくともまずは鍛えたい部位に刺激を与え続けることで十分に成長できるでしょう。
そして、その種目に慣れて余裕が出てきたら、どんどん新しい種目にチャレンジし、バリエーションを持ちながら筋トレを続けることで、中長期的にも筋トレを楽しみながら、さらなる成長が期待できます。
参考文献
Is Muscle Confusion Real? Our Experts Answer Your Most Pressing Questions
https://www.runnersworld.com/training/a46021569/muscle-confusion/
元論文
Muscle Hypertrophy and Strength Adaptations to Systematically Varying Resistance Exercises
https://doi.org/10.1080/02701367.2024.2409961
The effects of exercise variation in muscle thickness, maximal strength and motivation in resistance trained men
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0226989
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
ナゾロジー 編集部