『エリア88』に登場する主人公たちパイロットは、乗機を自腹で購入しています。命がけの仕事の道具ではあるものの、そこには本人たちの趣味が鮮やかに見え、そして主人公たる風間真の乗機は、ご存じのようにかなり「濃い」ものでした。



仕事道具は吟味するタイプ、という言い方もでき……いややっっぱ趣味だわ。画像は2000年発売のMF文庫版。『エリア88 11』著:新谷かおる (KADOKAWA)

【画像】軽量な機体がお好みのよう こちら『エリア88』風間真が乗り継いだ機体の実機写真です(6枚)

4割くらいはマッコイ爺さんのせい?

 新谷かおる先生によるマンガ『エリア88』の主人公「風間真」は、作中5機の自分専用機を乗り継いでいます。ただその、彼が選んだ戦闘機のいくつかは、かなりユニークというか、マニアックなものでした。

『エリア88』でパイロットが搭乗する戦闘機は、パイロットが自腹で出入りの武器商人「マッコイ爺さん」から購入するものです。真が物語の序盤に搭乗していたF-8E「クルセイダー」は世界初の超音速艦載戦闘機で、真は30万ドルを支払ってこれを購入し「高い買い物だった」と述べていました。ただ1259機が生産された上、本作の連載開始時点である1979年にはアメリカ海軍から退役していましたので、入手はしやすかったものと考えられます。

 F-8Eを失った真が次に入手したのはF-5E「タイガーII」で、これはアメリカが中小国への供与を想定して開発した戦闘機です。このためメンテナンスなども容易で、生産機数は複座型のF-5Fも合わせると1399機に達していますから比較的、入手も容易だっったはずです。中東で真が乗る戦闘機としては当時、最適なもののひとつといえるでしょう。

 ここまでの真の乗機は常識的なものでしたが、F-5Eの次に購入したサーブ35「ドラケン」から、彼の乗機はマニアック路線に突入しています。

 ドラケンはスウェーデンのサーブ社が開発した戦闘機で、『エリア88』に登場した1980年代前半には後継機のサーブ37「ビゲン」と交代し退役していましたので、中古機の数はそこそこあったのではないかと思います。ただ、スウェーデンは兵器の輸出に厳格な基準を設けており、交戦中のエリア88でまっとうなルートから入手するのは、ほぼ不可能だったはずです。

 実際マッコイ爺さんも、ドラケンが輸出されたフィンランドから事故で失われた2機をニコイチにして、アフターバーナーはドイツから入手、エンジンはオランダから「かすめ取ってきた」と述べています。

 真がドラケンを入手した時、戦友の「ミッキー・サイモン」はF-14「トムキャット」を入手しています。F-14は高価な戦闘機で、マッコイ爺さんはそれよりもドラケンのほうが高くついたかもしれないと述べており、そのような戦闘機をほかに選択肢があるなかで自腹で購入するわけですから、もはや趣味の領域、しかもだいぶ濃い部類かもしれません。

 真がドラケンの次に乗り継いだF-20「タイガーシャーク」は、F-5Eのエンジンや電子機器などを強化したモデルで、採用国は現れず、史実では試作機3機が作られたのみです。真がリクエストしたものではなく、マッコイ爺さんの勧めによる購入でした。恐らくドラケンの件で、真に対し思うところがあったのでしょう、F-20を運んできた時のマッコイ爺さんの顔は、店の奥から一点もののアイテムを取り出してきて、好事家に勧める店員さんのようにも見えます。

 真が最後に購入したX-29は、NASA(アメリカ航空宇宙局)が開発した実験機で、実機はミサイルや機関砲などを搭載していません。おそらく、巨万の富を手に入れて恋人とも再会し、日本で安穏とした生活ができたにもかかわらずエリア88に戻ってきた真に応えるため、マッコイ爺さんが苦心惨憺して入手し、改造したものなのではないかと思います。

 秘蔵のフィギュアを家族が勝手に捨てた、などという話はよく聞かれるもので、趣味の道を完遂するためには、よき理解者が必要なものです。真の場合は、それがマッコイ爺さんだったのかもしれません。