名前も知らない魚たちをさばく!港町ならではの「磯魚の宴」

●カワハギってめっちゃカワハギだった!



 いただいた磯魚は持って帰ってその日の夕食にすることにしました。量が多いので仕事を早めに切り上げて夕方から仕込みを開始。まずは調理の簡単そうなカワハギから着手しました。いただいたのはシロカワハギ3匹とクロカワハギが2匹。どちらも手のひら以上あり、とても立派でした。

カワハギ5匹(筆者撮影)

 さばき方を調べてみると意外と簡単そうでしたが、実際にやってみるとこれが難しい。「皮と身の間に包丁を入れて…」というYouTubeの解説動画を見ながら、おそるおそる包丁を入れます。

 カワハギの皮はザラザラとしていて、その名の通り、剥ぐように皮を取っていきます。その様子はまさに「カワハギ」!名前の由来に感動しました。

 人生初めてのカワハギさばきは、最初の1匹目は悪戦苦闘しましたが、2匹目、3匹目と経験を重ねるうちに、どんどんコツがつかめてきました。4匹目になると、きれいに皮が剥けていく快感を味わえるように!

カワハギの“皮剥ぎ”は快感(筆者撮影)

 身は想像以上にプリプリで、淡白な味わい。シロカワハギは臭みがなく、刺身でそのまま食べられました。

シロカワハギは臭みもなく刺身も絶品(筆者撮影)

 「カワハギの刺身は肝醤油で食べるとうまい」とのことだったので、肝を壊さないように丁寧に取り出して、少し湯掻いて醤油とあえて肝醤油に。濃厚な肝とあっさりとした白身の相性は抜群で、とんでもなくおいしかったです。

肝もしっかりいただきます(筆者撮影)

 ちなみに、カワハギの皮は昭和初期までヤスリとしても使われていたんだそうです。魚のさばき方を練習すると、魚の意外な知識を得られるので、それも楽しみのひとつになっています。

ザラザラしたカワハギの皮(筆者撮影)

 シロカワハギの次はクロカワハギに挑戦。こちらはかなり強い磯の臭いがあったので、漁師さんに教わった通り煮付けと焼き魚にすることにしました。

 内臓を取り除いたら肝はそのまま鍋に入れて煮るだけ。焼き魚は塩をふってグリルへ。結果、臭いも気にならなくなり、ふっくらとした白身をとてもおいしくいただきました。

カワハギの煮付け(筆者撮影)

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●タカノハダイと伊勢海老との格闘



 さて、カワハギの次は大きなタカノハダイの出番です。

タカノハダイは見た目のインパクトも抜群(筆者撮影)

 赤みがかった体に、でっぱった口。尻尾には水玉模様があり、体にはうっすらと縞模様が見えます。

 「名前はわからん(笑)」と漁師さんが言うので、Googleフォトで写真検索してみるとタカノハダイというタイの一種とのこと。しっかりと下処理をすれば、とてもおいしい魚だというので、包丁を握る手にも力が入ります。

 まずは表面に熱湯をかけて鱗をとっていきます。鱗は硬く、包丁を入れるのに一苦労。普段スーパーで買う魚とは、まるで違う手ごたえです。四苦八苦しながら3枚に下ろし、とりあえず煮付けにしました。

 さばいてみるとクロカワハギ同様に磯臭さは強かったですが、煮付けてみたら気にならなくなりました。初めて食べる魚でしたが、見た目からは想像できない上品な白身の味わい。思わず「うまい!」と声が出るほどの味でした。

タカノハダイの煮付けとカワハギのお造り(筆者撮影)

 そして、この日のメインディッシュは大ぶりの伊勢海老!

 「こんな立派な伊勢海老を素人がさばいていいのかな…」と少しビビりながらも緊張する手つきで挑戦。頭と身を分け、内臓を取り除き、尾の部分までしっかり処理。なんとか刺身とみそ汁にこぎつけました。

立派な伊勢海老(筆者撮影)

 新鮮な伊勢海老の味わいは格別です!甘みのある身とコクのあるみそ汁に、全員が「贅沢~!」と笑顔になりました。

お椀から溢れ出る伊勢海老(筆者撮影)

 「趣味は魚さばきです」と言える生活

 「魚をさばくの、めちゃくちゃ好きだ!」

 合計4時間の格闘の末、刺身、煮魚、焼き魚、味噌汁と、磯魚のフルコースを作ったあとの達成感は本当に大きなものでした。都会で暮らしていた頃の私からは、想像もできない変化です。

 朝、漁師さんに魚をいただき、昼に調理方法を考え、夜に魚と向き合い、おいしい料理を友人たちに振る舞う。とても楽しい一日を過ごせました。移住当初は恐る恐るだった魚さばきが、今では立派な趣味になっていることに自分でも驚きです。

 漁師さんがリリースしてしまう魚たちも、私たちの食卓を豊かにしてくれる素晴らしい食材。これからも魚料理の腕を磨いていきたいと思います。そしてなにより、「今日はどの魚をさばこうかな?」と贅沢な悩みを持てる生活に心から感謝です。(フリーライター・甲斐イアン)

■Profile

甲斐イアン

徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。