エロティックなシーンが満載の一般映画として日本公開され、女性向けの“ソフトポルノ”という新たなジャンルを確立するとともに、社会現象級の大ヒットを記録した『エマニエル夫人』(74)。同作と同じエマニエル・アルサンの原作小説を新たな解釈で映画化した『エマニュエル』が、1月10日(金)より公開される。
そこで本稿では、官能映画の一時代を築いた「エマニエル夫人」シリーズを、主人公のエマニエル役を演じた女優にフォーカスを当てながら振り返っていこう。
■正統なシリーズは7作品!4人の女優が演じてきた多様なエマニエル
外交官の夫に会うためにタイのバンコクを訪れたエマニエルが、性の大家に導かれて内に秘めた欲望を解放していく姿を描いた『エマニエル夫人』から始まり、『続 エマニエル夫人』(75)、『さよなら エマニエル夫人』(77)と続く3部作は、ピエール・バシュレの印象的なテーマ曲とともに、いまなお女性たちの性的解放のシンボルとして語り継がれている。
この3本でエマニエル役を演じ、一躍時の人となったのは、オランダでファッションモデルとして活動していたシルヴィア・クリステル。本シリーズでブレイクを果たしたあとは、『華麗な関係』(77)や『プライベイトレッスン』(81)、『チャタレイ夫人の恋人』(82)といったエロティック路線を牽引。さらに『エアポート’80』(79)などハリウッド作品にも進出を果たす。
【写真を見る】性的解放のシンボル「エマニエル夫人」4作目では、あの有名女優が全身整形で別人に(画像は『プライベイトレッスン』より) / [c]Everett Collection/AFLO
シリーズ第4作『エマニュエル』(84)で7年ぶりにエマニエル役に復帰したクリステル。同作ではエマニエルがブラジルで全身整形を行なうというストーリーで、別人に生まれ変わったエマニエルを演じたのはスウェーデン出身のファッションモデルだったミア・ニグレン。ニグレンは“2代目”として日本でもCMに出演するなど注目を集めた。また、クリステルはその後もシリーズ第7作『エマニエル パリの熱い夜』(93)でもエマニエル役に復帰を果たしている。
最初の3部作の大成功を受けて、世界中で数多くの便乗・派生作品が作られてきたが、アルサンの原作小説(並びにそのキャラクター)を描いてきた作品はごく一部。それどころか、濫造されすぎたあまり、エリカ・ブランが主演を務めた『アマン・フォー・エマニュエル』(69)という主人公の名前が“エマニュエル”であるだけの無関係なイタリア映画もアルサン原作の「エマニエル」シリーズのひとつと勘違いされるほどに。
3代目を務めたモニーク・ガブリエルは、様々なジャンルの作品に出演(画像は『レディ・ウェポン』)より / [c]Everett Collection/AFLO
先述のクリステル主演の5作品以外では、まず『エマニエル ハーレムの熱い夜(別題:エマニエル5)』(86)が正統なシリーズ第5作。こちらは映画制作者となったエマニエルが、映画祭会場で服を剥ぎ取られてそのまま大富豪の船に乗り込み情事に耽り、さらに彼女をハーレムの一員にしようとする独裁者の王子に誘拐されるというストーリーの作品。
同作でエマニエル役を演じたのはモニーク・ガブリエル。ロン・ハワード監督の『ラブINニューヨーク』(82)で映画デビューを飾り、『フラッシュダンス』(83)のストリッパー役や『ヤングチャタレイII』(84)のメイド役など端役を中心に多くの映画に出演。しかしクリステルとは対照的に女優として芽が出ることはなく、2002年に引退した。
『エマニエル カリブの熱い夜』でエマニエル役を演じたのは、当時20歳のナタリー・エール / [c]Everett Collection/AFLO
第6作の『エマニエル カリブの熱い夜(別題:EMMANUELLE6 カリブの熱い夜)』(88)では、オーストリア出身のナタリー・エールが“4代目”に就任。同作も、南米から帰ってきて記憶喪失になったエマニエルが、エロチックな心理療法を通してカリブでの過激な性体験を思いだしていくという突拍子もないストーリーが展開。ウーハーは16歳の時にドイツで雑誌「プレイボーイ」の表紙を飾り、数本の映画出演を経て20歳でエマニエル役に挑戦。公開前に結婚しており、それ以後はすっぱりと女優業を引退している。
■“新生エマニュエル”を演じるのは、『燃ゆる女の肖像』のノエミ・メルラン!
そして『エマニエル夫人』の公開からちょうど50年を迎えた2024年に製作された新たな『エマニュエル』では、『あのこと』(21)でヴェネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いたオードレイ・ディヴァン監督のもと、『燃ゆる女の肖像』(19)で脚光を浴びたノエミ・メルランがエマニュエル役を演じる。
『エマニュエル』の舞台は香港の高級ホテル!ノエミ・メルラン演じるエマニュエルが禁断の快楽へ… / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
ホテルの品質調査の仕事をするエマニュエルは、オーナー企業からの依頼で香港の高級ホテルに滞在しながら査察を進めていく。サービスも設備もほぼ完璧で、最高評価の報告書を提出するエマニュエルだったが、ランキングが落ちたことが許せないオーナーから経営陣のマーゴ(ナオミ・ワッツ)を懲戒解雇にできるアラを探すよう命じられる。ホテルの裏の裏へと潜入していくエマニュエルは、やがて関係者や妖しげな宿泊客たちによって、禁断の快楽へと誘われていくこととなる。
国際的な注目を集めるノエミ・メルランが、エマニュエルの脆さと強さを体現 / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
パリ出身のメルランは、モデルとしてキャリアをスタートさせた後、2011年ごろから女優として活動を開始。マリー=カスティーシュ・マンシオン=シャール監督の『Heaven Will Wait』(16)でセザール賞有望若手女優賞にノミネートされ、『パリの家族たち』(18)や『英雄は嘘がお好き』(18)、『不実な女と官能詩人』(19)などに出演。
『TAR/ター』で第79回ヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットに登場したメルラン / 写真・SPLASH/アフロ
『燃ゆる女の肖像』では、アデル・エネル演じる伯爵令嬢のエロイーズの肖像画制作を依頼される画家のマリアンヌ役を好演。セザール賞やヨーロッパ映画賞にノミネートされ、一躍国際的な注目を浴びることに。ジャック・オディアール監督の『パリ13区』(21)やケイト・ブランシェット共演の『TAR/ター』(22)で存在感を発揮し、ルイ・ガレル監督の『The Innocent』(23)ではセザール賞助演女優賞を受賞。今後も話題作への出演が控えている。
「その濃密な旅に巻き込まれ、どこか私自身の内なる旅に出るような感覚をおぼえました」と本作の脚本を読んだ第一印象を振り返ったメルランは、撮影期間中に普段とは異なるルーティンに身を置いて意識的に自らを抑圧し、そこから少しずつ自分を解放していくことで、世界中の誰もが知っているといっても過言ではないエマニュエル役に入り込んでいったことを明かしている。
『エマニュエル』は2025年1月10日(金)より公開 / [c]2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
これまでの「エマニエル夫人」シリーズとは一線を画すように、官能的なスリラー映画としての一面も持ち合わせた本作で、メルランは人間の欲望に果敢に向きあうエマニュエルという役柄をどのように体現しているのか。その演技に注目しながら、劇場で禁断の扉を開いてみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬