“3強対決”が予想されていた箱根駅伝2025は終わってみれば前回王者・青学大の完勝だった。
往路は1区の宇田川瞬矢(3年)が10位スタートも、2区の黒田朝日(3年)で3位に浮上。4区の太田蒼生(4年)が中大に急接近すると、5区の若林宏樹(4年)が区間賞・区間新記録で2年連続となる往路Vのゴールに飛び込んだ。
【画像】「大手町で笑おう」青学大が2年連続8度目の総合優勝! 第101回箱根駅伝の歴史に残る名場面をプレーバック! 復路は6区で野村昭夢(4年)が区間新記録で飛び出すと、8区の塩出翔太(3年)と10区の小河原陽琉(1年)も区間賞。青学大は10時間41分19秒の大会記録を樹立して堂々の連覇を果たしたのだ。
2位の駒大とは2分48秒、3位の國學院大とは6分40秒という差がついた。3強の命運を左右したポイントはどこにあったのか。
まずは2区の攻防だ。青学大・黒田は創価大・吉田響(4年)に1秒届かなかったが、日本人最高記録(1時間05分57秒)と区間記録(1時間05分49秒)を上回る1時間05分44秒(区間3位)と快走した。駒大・篠原倖太朗(4年)も設定タイム(1時間06分30秒)を上回る1時間06分14秒(区間4位)と好走したが、3年連続の2区となった國學院大・平林清澄(4年)が苦戦する。1時間06分38秒の区間8位。山が未知数だった國學院大はエース平林でアドバンテージを奪えず、逆に離されるかたちになった。
そして一番大きかったのが“山”になるだろう。
5区は前回1時間09分32秒(区間2位)の青学大・若林が1時間09分11秒の区間新記録で走破した。駒大は「1時間8分台」と「山の神」を目指した山川拓馬(3年)が1時間10分55秒の区間4位と伸び悩み、往路4位。國學院大は、「5区は1時間10分台ぐらいでいける状況かな」と前田康弘監督は話していたが、高山豪起(3年)が1時間12分58秒の区間14位と苦しみ、往路を6位で折り返した。
トップ青学大とのタイム差でいうと、駒大は3分16秒、國學院大は5分25秒だった。復路での逆転Vをイメージしていた國學院大の前田監督は「1分半から2分なら逆転できる」と読んでいたが、往路で3冠が絶望的な大差がついてしまった。
往路のタイム差と復路の戦力を考えると青学大の連覇は確実な状況で、原監督は、「山下りのスペシャリストの野村が後続に30秒以上離して、7、8、9、10区はピクニックランで帰ってきたい」と笑顔を見せていた。
しかし、復路では当日変更で7区に入った駒大・佐藤圭汰(3年)が衝撃の走りを披露する。恥骨を2度痛めたことで、本格的なトレーニングを開始して2か月ほど。状態は「70ぐらい」だったという。しかも10か月ぶりのレースだったが、10㎞を28分21秒で通過するなど区間記録を上回るペースで突っ込んだ。そして従来の記録(1時間01分40秒)を1分近くも塗り替える1時間00分43秒という異次元の走りを見せたのだ。
佐藤は青学大との差を一気に2分27秒も短縮。さすがの原監督も冷や汗をかいたが、青学大は6区・野村昭夢(4年)の走りが効いていた。
野村は前回も6区を58分14秒(区間2位)と好走しており、今回は区間記録(57分17秒)を上回る「56分台」を目標に掲げていた。そして〝有言実行〟の快走を披露。区間記録を30秒も更新する56分47秒という驚異的なタイムで山を駆け下りた。
駒大は6区に前々回58分22秒で区間賞に輝いた伊藤蒼唯(3年)を配置しており、藤田敦史監督は、「6、7区で流れを変えたい」と話していた。伊藤は区間歴代5位の57分38秒で快走するも、野村に51秒も引き離された。7区は駒大・佐藤が急接近したことを考えると(※7区終了時でトップ青学大と駒大との差は1分40秒)、野村の区間新記録がなければ、8区以降の流れが大きく変わっていたかもしれない。
青学大は5区と6区のダブル区間新で山を完全制覇。なお野村は金栗四三杯と大会MVPの同時受賞となった。
そして3強の5区と6区のトータルタイムは青学大が2時間05分58秒、駒大が2時間08分33秒(青学大と2分35秒差)、國學院大が2時間12分39秒(青学大と6分41秒差)。総合タイムは青学大が10時間41分19秒、駒大が10時間44分07秒(青学大と2分48秒差)、國學院大が10時間50分47秒(青学大と6分40秒差)。3強に関しては平地区間のタイムはさほど変わらず、山のタイム差がほぼそのまま総合成績のタイム差になった。
今大会はつまり、〝山〟が勝負を分けたと言っていいだろう。
取材・文●酒井政人
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