2016年に日本で初演、2019年、2022年に再演され、チケットは全公演即日ソールドアウトするほど人気を集めるブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」。4月27日に開幕する4回目の公演では、メーンキャストがほぼ一新され、これからの日本のミュージカルシーンを担う実力派が結集した。ドラァグクイーンのローラは、甲斐翔真と松下優也のWキャスト。チャーリー役の東啓介と有澤樟太郎とともに、新たな「キンキーブーツ」を作り上げる。今回は、甲斐と松下に役柄への思いや公演への意気込みを聞いた。

-新キャストとして出演が決まった心境を教えてください。

松下 僕は日本の公演ではなくロンドン公演を映像で見させていただきましたが、めちゃくちゃショーアップされていて、お客さんも一緒になって盛り上がれる作品だということが伝わってきました。ローラの人間性やユーモアな部分や繊細なところまでしっかりと描き出されていて、それがすてきだなと思いました。

甲斐 僕は、2016年に初めて拝見させていただいたときに、すごく衝撃を受けたことを覚えています。こうして今、この業界を知ったからこそ、あの時期、あの瞬間に「キンキーブーツ」を上演したということは、日本のミュージカル界においてすごく特別で衝撃的なことだったのだろうということを改めて感じます。公演を重ねるごとにどんどんファンの皆さんが増えていく作品に、自分がこうして出演できるということは夢にも思っていなかったので、楽しみです。

-初演からご覧になっていて、もし、ご自身が出るとしたら、ローラ役だと思っていましたか。

甲斐 思ってなかったですね。ローラの要素が僕にはないと思っていたので、どちらかといえばチャーリーかなと。可能性が全くないと思っていた役だからこそ、新しい扉を開けないといけない。こんなチャンスに恵まれることはなかなかないことだと思うので、これはやるべきだと強い思いを持ってオーディションを受けさせていただきました。受かったときもまさかと思いましたが、僕はこの作品を見続けてきましたから、日本においてこの作品の在り方を知っているつもりではあるので、皆さんの期待と甲斐翔真に求められていることをうまくミックスしてやれたらいいなと思います。

-松下さんはローラを演じることにどんな思いがありましたか。

松下 僕も夢に見たことはなかったので、本当にびっくりしました。自分が演じることがあるなんて思ってもいなかったので、オーディションのお話をいただいた時点で驚きましたが、こうして演じさせていただけることになりとてもうれしかったです。自分がこれまでやってきたことが伝わっているのかなと思いましたし、オーディションを受ける時点でおそらく選ばれてお声をかけていただいたのだと思うので。

-ビジュアル撮影で、実際にローラの扮装(ふんそう)をしてみてどのように感じましたか。

松下 細かいディテールまで作り込んでくださったので、なろうとしなくても自然とスイッチが入る感覚がありました。自分なんだけど自分じゃないような、自分から離れていく感じでした。

甲斐 人生で初めての経験でした。ここまで人の手を借りて、自分を生まれ変わらせるような体験はなかなかできないと思います。メークをするとか、よりきれいにするといった比じゃない(笑)。撮影の日は、鏡を見て100回くらい「これ、誰?」って言っていました(笑)。それくらい、まるっきり違う人になれるという経験をしました。なので、オーディションのときに抱いていた「大丈夫かな、できるかな」という不安はクリアしたように思います。逆に、無限大の可能性があることを感じましたし、自分を一旦、置いておいて、自分以外の何かで表現できるのではないかなと思います。

-今回、チャーリー役は東 啓介さんと有澤樟太郎さんがWキャストで務めます。二人の印象は?

松下 東さんは、とにかく「でかい」と聞いていたので、会ったときも「でかいな」とは思いましたが(笑)、めちゃくちゃ人懐こい方で、良い意味でギャップがありました。すごく社交的で全く人見知りをしない人なんだろうなと感じました。

-有澤さんとはミュージカル「ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド」でWキャストを務めましたね。

松下 そうですね。当時と変わらず、めちゃくちゃかわいいやつです。「ジョジョ」は新作ということもあり、樟太郎と二人三脚でやってきたという感覚がありました。「ジョジョ」では自分たちで進めていかなくてはいけない場面もあったので、コミュニケーションをたくさん取って、一緒に作り上げていった作品でしたが、ステージでは一緒になることはなかったので、今回、一緒のステージに立てるのはすごく楽しみです。

-甲斐さんはいかがですか。

甲斐 東 啓介くんは、はるか昔に『シグナル100』という映画でお互いに生徒役でご一緒しました。そのときは僕はまだミュージカルに出演していなかったですが、(東が)ミュージカルに出演されている人だということは知っていて。いつかまた共演したいと思っていたので、こうして共演できるのはすごくエモーショナルなことだなと思います。有澤くんは、ミュージカル「グリース」を拝見させていただいていたので、(その役のイメージで)めちゃくちゃチャラい人だなと思ってたんですよ(笑)。今回、お話しさせていただいて、そのイメージと180度違う方で、役者ってすごいなとつくづく思いました。素直な有澤くんが作るチャーリーがどんなふうに出来上がるのかすごく楽しみです。

-甲斐さん、松下さんのお互いの印象は?

松下 すごく大人びている方だと思いました。「ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル」を見に行かせてもらいましたが、だからこそ、ああいう表現につながるんだろうと感じましたし、落ち着いている方だなと。

甲斐 (松下は)輝き方に違うベクトルがあって、ミュージカル界で異彩を放っている存在だなと思います。こうして取材などで出てくる言葉のイメージが天才的で。この4人のバランスがうまいことできそうだなと思いますし、良い稽古場になりそうだと楽しみです。

-この作品はありのままを受け入れることの大切さを描いていますが、お二人の「ありのままの姿」、ひいては「素の自分や実はこんな一面があるというところ」を教えてください。

松下 「実はこんな一面」というところばかりな気がしますね。こういう仕事をしていると。

甲斐 イメージが独り歩きしますからね。

松下 パブリックイメージもあるし、何かの役を演じたらそういうイメージで見られるし。でも、僕は、この仕事以外のことは本当に何もできないんですよ。こういう仕事をしている人でも、家ではご飯を作ったり、普通の生活をしていたりする人もいますが、僕には意味が分からない。何でそうしたことができるの? って(笑)。自分は器用なタイプではないので。

-それは意外でした。器用そうに見えます。

松下 ですよね。そう見られるんですけど、意外とめちゃくちゃ不器用です。

甲斐 僕はありのままだと思います。イメージを作るというのは得意ではなくて、素に戻ってしまうんですよ。役作りをするときも、言葉にうそがないようにしないとどこかでぼろが出てしまうし、緊張してしまうから、あまりうそはつかないようにしています。意外な一面だと何だろう…良くも悪くもバカ正直なところかな。言ってはいけないことと、それを言ったらみんなが共感できること、それから言わないこと。そこを探るのが好きです(笑)。

-ギリギリを攻めていくんですね(笑)。

甲斐 多分、(松下も)同じタイプですよね。真面目に不真面目しているし、不真面目に真面目しています。

-熱狂的なファンも多い本作ですが、多くの人にこの作品が受け入れられている理由については、お二人はどのように考えていますか。

甲斐 実は、自分に自信がある人ってそんなに多くないんじゃないかなと思います。例え、自分の中の氷山の一角でかっこいい、きれい、すてきというところがあったとしても、自分では全くそうは思っていないということもあります。ローラは、その氷山をめちゃくちゃ大きくした人。それを支えるのがサイモン(ローラの素の姿)なのだと思います。だから、ローラは全てを見せられる。そうした姿にみんなが憧れるのかなと思います。

 それから、サイモンが本当の思いを吐露するシーンは、共感できるところが多いと思います。ドラァグクイーンというとあまり身近には感じないかもしれませんが、例えばちょっとおしゃれして仕事に行ったり、メークを変えたり、ネイルをいつもと違うものにしてみたりすることで気分が上がる。「コンプレックスのある自分を受け入れて、その上で輝ける自分を探す」という、この作品のメッセージに僕は引かれます。

松下 体の中から湧き上がるような高揚感がある、めちゃくちゃ楽しいミュージカルだと思います。チャーリーとローラを通して勇気をもらえます。いろいろなミュージカルがありますが、この作品はとにかく元気になれる作品です。でも、それだけじゃなくて、疲れている人には寄り添ってもくれるから、元気がないときに見ても奮い立つものがある。今回も見に来たお客さんにそうした思いを届けたいです。ローラが葛藤し、戦っているところを見て、自分に置き換えて見てもらえたらと思います。

 ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」は、2025年4月27日~5月18日に都内・東急シアターオーブ、5月26日~6月8日に大阪・オリックス劇場で上演。