性的画像が蔓延していくメカニズム


性的画像が蔓延していくメカニズム / Credit:Canva . 川勝康弘

なぜ所得格差が女性に自らの性的画像を投稿させるのか?

先行研究(Wilkinson & Pickett, 2009; Frank, 2007など)が繰り返し示唆しているように、所得不平等が拡大すると、人々は「自分が社会内でどの位置にいるか」をより強く意識するようになります。

これは「相対的剥奪感」や「地位不安」を引き起こすだけでなく、競争を通じて社会的上昇を図ろうとする心理的プレッシャーを高める要因ともなります。

男性の場合は「経済力やキャリア」によって地位を示すことが多いとされる一方、女性の場合は「外見の魅力」も重要な競争資源となる可能性があります。

こうした認知フレームにおいて、ソーシャルメディアは他者との比較や、羨望を集める“見せ方”を極めて可視化する舞台といえます。

たとえばInstagramやTikTok上では、“いいね”やコメント数などの指標を通じて、自分の投稿がどれほど注目を浴びているかを即座に把握できる仕組みがあります。

所得格差が大きい環境下では、女性が「より目立ちたい」「より魅力的に見られたい」という意識を強め、その結果として、より性的にアピールする写真や動画を投稿する動機が高まると考えられます。

進化心理学的視点(Clutton-Brock, 2007 など)によれば、非ヒト動物の雌でも、オスが持つリソース(食糧や繁殖可能な縄張りなど)にばらつきがある環境ほど、雌間競争が活性化するケースがあります。

人間社会においては、所得不平等の拡大が「優位な男性(高所得層・高地位層)」へのアクセスをめぐる女性間競争を激化させる可能性が指摘されます。

この文脈でBlakeらの研究結果が示したように、所得格差が大きい地域ほど女性の性的自己表現行動(セクシーなセルフィーや露出の高いファッションなど)が活発化することは、進化論的アプローチとも整合的といえるでしょう。

ただし、女性による性的自己表現は必ずしも「男性を誘引する行動」に限られるわけではなく、女性同士の比較・対抗意識が重要な役割を果たすという視点もあります。

たとえば、SNS上でフォロワー数を競い合ったり、「誰が一番魅力的か」といった直接的・間接的比較が行われたりすることで、女性間競争がさらにエスカレートする可能性があります。

所得不平等における“勝ち組・負け組”の図式は、外見的アピールの分野にも投影されるというわけです。

したがって、所得不平等によって高まる競争環境のなかで、女性が自発的に「性的魅力」を“武器”や“資本”として活用しようとする心理的動機が強まることは十分に考えられます。

ここでのポイントは、外見重視の行動が常に「抑圧」だけでなく、「戦略的行動」として解釈される余地をもつということです。

次は戦略としての性的画像について「限られたお金持ちの存在を中心にまわる婚姻市場」や「SNS登場によって作られた無限の競争地獄」さらに「女性をめぐる文化的要因」など構造的な面からの話を進めていきたいと思います。

(広告の後にも続きます)

何が女性を脱がせているのか?:進化の観点から考える


何が女性を脱がせているのか?:進化の観点から考える / Credit:Canva . 川勝康弘

経済学や社会学の研究では、所得分布の歪みが「婚姻市場」に与える影響がしばしば議論されます。

特に、高所得層の一部に資源や富が集中すると、「高所得男性」が相対的に少数派となり、婚姻市場において“希少な優良物件”のような存在になる可能性があります。

進化生物学的にみれば、魅力的なオス個体の希少性が高まると、雌同士の競争はさらに激しくなるのが一般的です。

人間社会でも同様に、高所得男性をめぐる女性間競争が強まることで、女性にとっては外見的魅力をアップすることが大きなメリットとして捉えられるようになるでしょう。

SNS上の性的自己表現は、その“宣伝効果”を期待して行われる一面をもち、実際にBlakeらの研究結果でも「高所得不平等 → 女性の性的画像の増加」という図式が確認されています。

またBlakeらの研究でも触れられているように、所得格差の大きい地域は総じて都市化が進んでいる例が少なくありません。

都市化が進むほどSNSインフラも整備され、また多種多様なライフスタイルや価値観、ファッションが混在するため、競争が可視化されやすい環境が形成されます。

さらに都市環境では、隣人や地域住民だけでなく、SNSを通じてはるか遠方の人物とも“隣人感覚”で比較が可能になるため、「どこまでいっても上には上がいる」という状況が固定化されやすいという特徴があります。

所得不平等が激しい都市ほど、相対的な比較の対象や規模が大きくなるため、女性が外見的投資を通じて“差をつけたい”というインセンティブが際限なく強化されるのです。

常に比べられる状況では、人間は無限の競争地獄に晒されてしまいます。

同様の現象は非西欧社会でも見られます。

中東や北アフリカ地域など、宗教上の服装規定(ヒジャブやアバヤ着用など)が強い地域では、SNS上のセクシュアライズされた投稿は少なく見えます。

しかし一部研究では、そうした地域でも富裕層の女性による「プライベート・インスタグラム」などのクローズドコミュニティで、比較的大胆な服装やメイク写真が共有されている事例が報告されています。

これは「公的な場面と私的な場面の二重基準」が存在し、所得が高い女性ほど私的空間での性的自己表現を楽しむ余地があることを示唆します。

なお、これらの事例は十分な統計データが得られにくいため、Blakeらの研究ほど大規模な数値的検証は少ないのが現状ですが、「文化的・宗教的規範 + 所得不平等」が女性の自己表現行動に複雑な影響を及ぼしうる点を示す貴重な示唆となります。

極論すれば、女性が「競争に勝つために脱ぐ」という現象は、西欧文化圏に留まらず人類という種そのものの性質に起因する可能性があるわけです。

人類の理性について理想論を持つ人には認めがたいものかもしれませんが、人間も動物の一種と考える進化論的な枠組みでみると、女性の行動は決して理不尽ではありません。

進化心理学の立場からは「雌間競争」の活発化が性的アピールを高める事例は動物界でも観察されます。

たとえば、資源(巣の質や雄の持つ縄張りなど)が一部の雄に集中する種では、雌同士が身体的魅力や求愛行動を競う傾向がより顕著になることが報告されています。

もちろん、人間は高度な社会的・文化的要素を伴うため、動物行動のパラレルとして単純化過ぎる解釈は危険です。

人間の場合、宗教・法律・ジェンダー規範など多岐にわたる社会文化的要因が存在するため、動物行動学でみられる雌間競争に加えて「外部規範との調整」という要素が入ります。

たとえば、厳格な性道徳のある共同体では女性が露出度の高い服装をオンラインで公開すること自体が制裁の対象になりうるため、実際の振る舞いは一様ではありません。

しかし、動物にみられる雌間競争などの進化論的フレームワークは「なぜ女性が外見的魅力を競争に取り入れるのか」という問いへの有力な補助線となるのは間違いないでしょう。