「正直、ここまでとは」ロングボール多用のプレミアリーグに革命をもたらしたグアルディオラ。今季は自身が作り上げた“標準”に飲み込まれ…【コラム】

 プレミアリーグ王者、マンチェスター・シティが深刻な不調に陥り、ジョゼップ・グアルディオラ監督の手腕にも懐疑的な目が向けられている。

 10月末にリーグ杯でトッテナムに敗退した後、プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ(CL)など公式戦で5連敗。その後もプレミアリーグでは黒星が先行し、首位陥落後、現在は優勝争いからも脱落しかけている。CLではノックアウトフェーズに勝ち残れるか、正念場だ。

 昨今の強さを知っているものにとって、許容できない現実だろう。しかしながら、プレミアリーグで勝利を重ねるのは、そもそも簡単なことではない。

 グアルディオラも、いつだってギリギリのせめぎあいの中で、勝者となってきた。振り返れば、プレミアリーグ挑戦は当初、四面楚歌だった。1年目、少しでも成績が落ち込むと、辛辣な批判を浴びていた。マンチェスター・ユナイテッドのレジェンドGKからは「GKからパスをつなぐ?どうかしているよ」と真っ向から戦い方を否定された。

 当時のプレミアリーグは上位の数クラブは別にして、まだまだ「キック&ラッシュ」の伝統が残り、ロングボールを多用するスタイルだった。

「正直、ここまでとは思わなかった」

 グアルディオラ自身、当時のプレミアリーグに面食らっていた。文化的な革命を起こす必要があった。

「プレミアリーグはボールが空中を行ったり来たり、誰にもコントロールされない状態が続く。アクションとリアクションが頻繁に入れ替わり、『トランジションに真実がある』とでも言いたげで。ラ・リーガと比べて、テンポを作る意識は乏しい。こぼれ球を制するか、が常に大事だ。ボールがどこに転ぶか、というのは偶然性が強く、次のプレーが読みにくい。足元を転がすボールは次の展開を読めるのだが…」

 グアルディオラは悪戦苦闘だったが、折れなかった。自らのフィーリングを信じ、チームに彼だけの「論理」を植え付け、極力、「偶然」を排除した。

「ピッチにボールの通るべきルートを作る。そこを通すパスのスピードと精度を上げることで、相手を寄せ付けない」

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 彼は「たまたま」を否定し、論理を旗頭にした。そして能動的チームの仕組みを作り上げると、選手のキャラクター次第で戦い方を変化させ、成長を促した。その結果、チーム力を爆発させたのである。

それが栄光をもたらし、論理は今やプレミアリーグのスタンダードにまでなっている。

 グアルディオラは、革命の勝利者と言えるだろう。その彼が進化を遂げたリーグ全体に飲み込まれるなら、それも一興だろうか。たとえ、どんな終り方であっても、彼は時代を作った巨人である。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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