年が明けてもまだまだ熱いストーブリーグ。昨年12月、国内FAで東京ヤクルトスワローズ入りが決まっていた茂木栄五郎内野手(30)の人的補償として、東北楽天ゴールデンイーグルスは1月8日、小森航大郎内野手(21)の獲得を発表した。人的交流の盛んな両球団だが、どちらが得をしているのか。
今季はさらに止まらない東北楽天スワローズ化
ヤクルト初のFA人的補償選手となった小森は、宇部工高から2021年ドラフト4位で入団。右投げ右打ちの内野手で、173センチと小柄ながらパンチ力のある打撃と、昨季2軍で24盗塁でイースタン盗塁王に輝いた俊足が持ち味だ。
「昨季は9月に1軍初出場。4試合で5打数ノーヒットとプロ初安打はまだ打てていませんが、球団もファンもその将来性に期待していました」(スポーツ紙ヤクルト担当)
実際、ヤクルトファンの声として「これからが楽しみな選手だった。なぜプロテクトを外したんだ」という意見が散見される。一方で、主に二遊間を守る小森にとって、ミスタートリプルスリーの山田哲人、遊撃手としてベストナインを獲得した長岡秀樹、その他、若手内野手が横溢しているヤクルトでは出場機会がなかなか恵まれないのも事実。
「新天地で何とか花を咲かせてほしい」という親心を覗かせるファンの意見も少なくなかった。
では一方の楽天はどうか。
「楽天は今オフのドラフトで5球団が競合した明治大学のスター遊撃手、宗山塁を即戦力として獲得していて、二塁手にはリーグ1の守備率を誇る小深田大翔がいます。昨年、遊撃手のレギュラーだった村林一輝もまだ27歳と駒は揃っています。
そのため、守備指標に不安があり、俊足が売りの小森は外野にコンバートされる可能性もあります」(スポーツ紙楽天担当)
前述のとおり、小森はイースタンの盗塁王。楽天には小郷裕也(32盗塁)、小深田(29盗塁)、辰己涼介(20盗塁)とリーグ盗塁ランキング2位から4位の俊足選手がズラリ。さらに小森も獲得して、チームの機動力を強化したいのが、ともに現職に復帰した三木肇監督、石井一久GMの方針なのだろうか。
2018年に楽天のGMに就任して以来、監督も務めるなど球団首脳を担ってきた石井氏も、今季から監督に復帰した三木監督もヤクルト出身。
こうした経緯からファンの間でも注目されるのが、近年のヤクルトと楽天の人的交流の活発さで、一部では「東北楽天スワローズ」などと揶揄する声も上がっている。
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ヤクルトと楽天の蜜月関係
とくにヤクルト→楽天のルートは顕著で、自由契約となった助っ人外国人のヤフーレ、楽天から2020年に移籍した今野龍太、近藤弘樹(今オフ現役引退で楽天アカデミーコーチ就任)も出戻り、現役ドラフトでは柴田大地を獲得し、そして今回の小森、コーチ陣では森岡良介と、今季だけでも6人の人材がヤクルトから楽天へと移っている。
「これは、現職に復帰した三木監督、石井GMがともにヤクルト出身であることもさすがに無関係とは言い切れないでしょう。この流れを受けて『東北楽天スワローズ化が止まらない』と皮肉を言う両球団ファンも少なくありません」(前出、ヤクルト担当)
逆に、東日本大震災の際の「見せましょう、野球の底力を」のスピーチで楽天のみならず、東北復興の顔となった嶋基宏は、2020年にヤクルトへ移籍し、今季から専任ヘッドコーチに就任。将来の監督候補のひとりとなっている。このように選手、コーチ陣ともに人材の“交換”は毎年の恒例行事となっている。
ただ、選手の移籍後の活躍で見ると、ヤクルトのほうがやや分がありそうと話すのは、前出の楽天担当記者だ。
「昨季、楽天を戦力外となってヤクルトに拾われたかたちの西川遥輝はセンターのレギュラーとして113試合に出場、今野も昨季こそ登板機会に恵まれなかったものの、2021、2022年のセリーグ連覇を中継ぎで支えました。近藤も2021年前半の活躍は印象的。
一方で、ヤクルトから楽天へと移籍した選手はといえば、宮出隆自が移籍初年度の2010年にそれなりの打撃成績を残すも、川島亮、由規などは登板機会すらほとんどなかった。近年、ヤクルトは楽天から移籍した選手の力で2度のリーグ優勝をしていることを考えると、この蜜月関係はヤクルトが得をしていますね」
今回の茂木、小森の移籍はそれぞれの球団にどのような影響を与えるのか。今季はそのあたりも注目したい。
取材・文/集英社オンライン編集部