沖縄を代表する県民性の一つとしてあげられるのが「沖縄タイム(ウチナータイム)」。
時間に縛られず、ゆったりと過ごすイメージがある一方、時間にルーズで約束を守らないネガティブなイメージも。
こうした沖縄タイムが生まれる背景には、沖縄ならでは独特の価値観があると述べるのが、本土企業の沖縄進出をお手伝いしている伊波貢さん。沖縄でビジネスをする際、この価値観を無視して、仕事をしようとしてもうまくいかないのだとか。
沖縄独自の商慣習についてまとめた著書『沖縄ルール』もある伊波さんは「沖縄は日本語の通じる外国」と考えるといいと言います。沖縄県人独自の沖縄タイムとその背後にある価値観について話を聞きました。
■沖縄の人は70点主義で完璧を求めない?
――よくとらえればゆったり、悪くとらえればルーズな「沖縄タイム」の背景にある価値観とはどのようなものでしょうか。
伊波:
「テーゲー」という言葉をご存じでしょうか。物事を徹底的に突き詰めて考えずに、ほどほどの加減で生きていこうという概念で、「大概」に由来する方言だと言われています。ビジネス現場でテーゲーというと、仕事がいい加減など、ネガティブなニュアンスが含まれていると思います。
ただ、大城太さんの『最強のうちなーシンキング』では、70点主義者のテーゲーだからストレスが溜まらない、華僑と同様の思考である、独りよがりの完璧を目指して疲れるよりも、スピードを重視して、ある程度の出来の段階で確認を入れて進めるのがネット時代の仕事の仕方だと説いているんです。
日本はものづくり国家ゆえか、完璧に仕上げようという意識が強い国民性だと思いますが、沖縄のほうが世界感覚に近いのかもしれません。
――沖縄でビジネスをするときは「日本語の通じる外国」と思ったほうがいいとおっしゃる所以ですね。
伊波:
ええ、例えば、完璧過ぎる新幹線システムは海外販売で苦戦しています。分刻みで正確に運行する特殊技術はコスト見合いや、その国の文化になじまないらしく海外ではウケが悪いのだそうです。
よく聞く話ですが、日本では徹底的に不良品を出さない管理体制を構築する傾向があるといわれ、海外では一定の不良品が出るのは「しょうがない」と捉える場合が多いようです。クレームが来たら新品を送付するなどの対応で十分というわけです。
70点主義でまずは行動して次の展開を柔軟に考え、不足分は多くの人の助けで仕上げたり、別の方法を考える余地を残すと思えば、テーゲー主義も悪くはないのではないでしょうか。
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■沖縄の「3時くらい」は何時のこと?
――この70点主義が「沖縄タイム」につながるわけですね。
伊波:
沖縄では、「3時ぐらいに来るさぁ」という言い方をよくします。本土の人が沖縄で仕事をすると戸惑う表現でしょう。「ぐらい」ってなんだろうと。この「ぐらい」の幅は意外に広いんです。10分前に来ることもあれば、30分過ぎに来ることもあるでしょう。
――2時50分のときもあれば、3時20分、3時35分のときもあると。
伊波:
もちろん、皆が皆そうではありません。そういうケースは、沖縄では意外と多いということを知っておいてほしいのです。華僑でも、同様にゆるアポという概念があるそうです。ビジネスだと無責任だと憤慨する人もいるでしょうが、目的は、時間を守るということではないんですよね。その時々でビジネスチャンスを逃さないように敢えて時間のゆとりを持たせるわけです。
――まさに海外でビジネスをするような感覚ですね。
伊波:
私がもっとも驚いた経験は、ある県内経営者にアポを入れて伺ったら、別の方と打ち合わせ中でした。でも、「一緒にやろう」となり、初対面の方を交えて三つ巴の奇妙な打ち合わせとなりました。
――にわかには信じがたい話です。
伊波:
そうですね。ただ、私が仕事をお手伝いしている本土の人には、いったんは、そういうものだと理解して、受け入れると意外とうまくいくようになりますよ、とお伝えしています。完璧主義の罠にとらわれず、相手のゆるさを許容する姿勢があれば、ストレスを感じにくく、意外に仕事もスムーズにいくものです。「郷に入っては郷に従え」ではないですが、沖縄流テーゲー型ビジネススタイルは、世界に通じると思って、肩の力を抜いて沖縄でのビジネスにトライしてみることをおすすめします。