マドリー指揮官アンチェロッティの神がかり的な人心掌握力。スターを腐らせず、若手も台頭させる並外れたマネジメントの“極意”【コラム】

 今シーズン、スペイン王者、欧州王者であるレアル・マドリードは、不安定なスタートを切った。FCバルセロナ、ACミランに連敗。キリアン・エムバペが思った以上のプレーができず、批判が集まった。ライバルのバルサが好調だったのも拍車をかけたと言える。メディアやファンが騒ぎ、黄信号が灯った。

 しかしながら、イタリア人指揮官カルロ・アンチェロッティはほんの少しも揺らいでない。泰然自若。凄みすら感じさせた。

 そしてバルサが失速する一方で、マドリーは着実に結果を叩き出すようになった。エムバペが真価を発揮しつつあり、ジュード・ベリンガムも本来のプレーを見せつつある。ダビド・アラバ、ダニエル・カルバハル、エデル・ミリトンと3人の主力が前十字靭帯断裂で離脱していることを考えれば、上々の出来だろう。

「一人一人が大事な戦力」

 アンチェロッティは常々語っているが、それはリップサービスではない。各選手を良い心理状態でプレーさせることで、勝利につながるプレーができると確信しているのだ。

 選手を信頼し、プレーに集中させ、最大限を出させる。そのマネジメントが根底にあることで、大きく崩れることがない。選手の自主性や戦術眼に委ねる懐の深さというのか。

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 マドリーのようなビッグクラブでは、多くのスター選手が集う。彼らは驚くほど自尊心が強く、競争心が人並外れているだけに、掌握が簡単ではない。少し扱いを間違えるだけで暴発する。

 しかし、アンチェロッティはそれぞれの自負心を満たしながら、最大限の力を引き出している。たとえばルカ・モドリッチに途中出場を承諾させ、スーパーサブとしての力を引き出した。英雄的な選手を先発から外すだけで摩擦が生じるのだが、むしろ切り札を増やしたのだ。

「私はこれまで在籍したチームの選手たちといつも良好な関係を保ってきた」

 アンチェロッティは言う。繰り返すが、その人心掌握力は神がかっている。

「自分は『強権をふるわない監督』と言われるが、マドリーではそんな必要はないからだよ。このチームにいる選手たちは、いくつものタイトルを取ってきた。多くの場合、栄光に自己肥大し、過信してしまうものだが、彼らはそうした側面がない。チームのために犠牲を払って戦える。だから、私は落ち着いて見ていられるよ」

 これまでもクリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイルなど難しいスター選手も腐らせずに起用。同時に若手も台頭させてきた。並外れたマネジメントだ。

「選手ありき」

 それがアンチェロッティの理念で、だからこそ少しも無理がない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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