宮崎駿監督の代表作のひとつ『ハウルの動く城』のヒロイン、ソフィーにかかっていた「呪い」とはどんなもので、いつ解けたのでしょうか? 謎に迫ってみました。
『ハウルの動く城』静止画より (C)2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT
【画像】老婆姿の方が元気そう? こちらが呪いにかかる前のちょっと”芋っぽい”ソフィーです(4枚)
老婆になった後のほうが元気じゃない?
宮崎駿監督のアニメ映画『ハウルの動く城』のヒロイン「ソフィー」は、「荒地の魔女」によって90歳の老婆になる呪いがかけられてしまいます。呪いを解く方法を求めて家を出るところから物語が始まるのです。
お話が進むにつれて、ソフィーの姿は若返ったり、老婆の姿になったりを繰り返しますが、映画のラストでは若々しい姿に戻って「ハウル」とキスをしていました。いつ呪いが解けたのかはいろいろな解釈が可能ですが、はっきりとは描かれていません。
実はソフィーは荒地の魔女に出会う前から、ある種の「呪い」に縛り付けられていました。それは美醜に関するコンプレックスという呪いです。
若くて、兵隊に誘われるぐらい美しい見た目を持っていたソフィーですが、華やかで美しい母親や妹たちに引け目を感じており、自信のない彼女は鬱屈した気持ちを抱えていました。ソフィーの気持ちは、鏡の前でしかめっ面をする場面や、妹のレティーに「大丈夫よ。ハウルは美人しか狙わないもの」と言う場面などによく表れています。劣等感に苛まれ続けていたソフィーは、それこそ老婆のような気持ちで毎日を過ごしていました。
ところが、ソフィーは荒地の魔女による呪いで老婆の姿になって、初めて自由と闊達さ、ある種の図々しさを手に入れます。ハウルの城にずんずんと入っていって徹底的に掃除してしまったり、魔法使いのハウルに向かってもずけずけと言いたいことを言うようになったりします。
その後、ソフィーは眠っているときや、気持ちが昂っているとき、少女の姿になることがありました。90歳近い老婆らしい姿のときもあれば、背筋が伸びた40歳や50歳ぐらいの姿になっているときもあります。
彼女の気持ち次第で外見がどんどん変わっていくのです。荒地の魔女がかけた呪いとは、「内面に合わせた外見になる呪い」だったという解釈も成立します。ハウルに「きれいだよ」と言われた途端、老婆に姿に戻って「年寄りのいいとこは、なくすものが少ないところね」とつぶやく場面もありました。
ハウルが「美しくなかったら生きていたって仕方がない」とつぶやくのに対して、ソフィーが「私なんて美しかったことなんて一度もないわ!」と怒る場面は、ふたりの美醜に関する価値観の違いがくっきりと出ているとともに、ソフィーにかかっていた呪いが強固でややこしいものだということがよく表れています。さすがのハウルも少し戸惑っていたように見えます。
老婆の姿になったソフィーは抱えていたコンプレックスから解放されて自然体で振る舞っていましたが、同時にハウルへの恋心を募らせていきます。若い姿のままなら、きっと恋心なんて抑え込んでいたはずですが、老婆の姿になったからこそ素直な気持ちを表現できるようになったのでしょう。ハウルに対して献身的に振る舞うにつれ、ソフィーの見た目は若くなっていきます。ソフィーの内面が恋愛によって若返っていったのです。
そしてエンディングでは、若い姿になったソフィーがハウルの傍らにいました。しかし、ソフィーは呪いが解けて若返ったわけではありません。彼女の髪は星の光のような銀色のままでした。
宮崎駿監督は「この物語が素晴らしいのは、呪いが解けて主人公が若返るというハッピーエンドではない点だ。大切なのは彼女が年を忘れること」と語っています。ソフィーはハウルに恋をして、夢中になって行動することで自分の年を忘れていました。「自分なんて」という呪いから見事に解放されていたのです。