『機動戦士ガンダム』で「本当はガンキャノンが主役ロボットだった」といううわさ話があるようです。なぜそのような誤解が生まれたのでしょうか。



「HGUC 1/144 RX-77 ガンキャノン」(バンダイ) (C)創通・サンライズ

【画像】えっ、『ガンダム』MSの元ネタ!? こちらがガンキャノンに似ている「パワードスーツ」です(3枚)

『ガンダム』にまつわるウワサの真相

「ガンダムって、本当はガンキャノンが主役ロボットだったの?」

 こんな質問をされました。「違います」それが答えです。しかし、なぜそのような誤解が生まれたのでしょうか。

 この「ガンキャノン説」は、ガンダムのデザイン成立を説明するうえでの、誤解を生みやすい表現から生まれたもののようなのです。

 私が知る昭和から平成前半あたりまでのサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)が世に送り出したロボットデザインは、基本的にスポンサーである玩具メーカーとサンライズ側との打ち合わせの上ででき上がります。その段階では、さまざまなデザインが提出され、修正が繰り返されます。

 識者の方はよくご存じですが「モビルスーツ」は、海外のSF小説に登場する「パワードスーツ」という、人間が中に入って操る大きな着ぐるみのような兵器がヒントになっており、企画初期には、このパワードスーツをイメージリーダーにデザインがなされました。

 しかし玩具メーカーからの、もっと当時人気のロボットに寄せたものにして欲しいというオーダーに併せ、メカニックデザイナー大河原邦男さんがデザインしたのが、あのガンダムなのです。

 この大河原さんのデザイン以前には『ガンダム』のキャラクターデザイン、作画ディレクターの安彦良和さんが、パワードスーツからヒントを得て描いたものがありました。しかし、前述のスポンサーの意向等から、このデザインは没になります。

 ただ、とてもよく出来ていたので、ガンダムの玩具プレイバリューのため、設定としては兄弟機であるガンキャノンのデザイン案として復活を見たのです。

 このようなデザインの敗者復活は案外多く、例えば「ターンAガンダム』のスモーも、元は主役のガンダムとしてデザインされ、敵側のモビルスーツとして蘇っています。

 つまりガンキャノンはガンダムの没デザイン。「ガンキャノンが主役だった」わけではないのです。ですが、デザイン画の説明には「ガンダムデザイン案」と表記されることが多く、これを見て「実はガンキャノンがガンダムだった!」と勘違いしてしまったのでしょう。

 アニメロボットのデザインが決定する経緯も、作品によってさまざまです。『鉄腕アトム』など原作マンガがあるものはデザインが最初から決まっていますが、ガンダムのように一からアニメ制作側が作り上げて行くものもあります。そうした流れの中でたまたま生まれ、生き残ったガンキャノン。その経緯を思えば、ガンキャノンは「ガンダムのお兄さん」なのかもしれません。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。