Credit: Jennifer T. Wyffels et al., Environmental Biology of Fishes(2024)

男女の性行為でも、求愛表現の一つとして「甘噛み」くらいすることはあるかもしれません。

しかしサメの甘噛みはやはり一段レベルが違うのです。

特にオスは行為中にメスの体を固定しておくため、相手に噛みついてホールドし、時にメスの肉を引き裂いてしまうことすらあります。

またメスの方も負けてはおらず、オスに噛みつき返すのです。

さらに米デラウェア大学(University of Delaware)らの最新研究で、野生下のサメの咬み傷を調べれば、彼らの性行為がいつ盛んになるかも当てられることがわかりました。

では過激すぎるサメの性生活に迫ってみましょう。

研究の詳細は2024年12月4日付で科学雑誌『Environmental Biology of Fishes』に掲載されています。

目次

性器が抜けないようメスに噛み付く咬み傷から性行為が盛んになるシーズンを特定!

性器が抜けないようメスに噛み付く

サメの性生活は気の弱い人向けの世界ではありません。

魚類の多くは、哺乳類などとは異なりメスの生んだ卵にオスが精子をかけることで性行為が成立します。

しかし、サメの多くは胎生で体内に子供を宿しある程度育ってから産み落とします。

そのためサメは哺乳類のように、オスが自らの性器をメスに挿入するのですが、彼らは常に水中を泳いでいるので、気を抜くと性器の方も簡単に抜けてしまいます。

そこでオスはメスの体を固定しておくため、相手にがっつり噛みついてホールドしておくことが以前から知られていました。

こちらは豪州に拠点を置くウルフロックダイブセンター(Wolf Rock Dive Centre)によって撮影された実際の貴重な映像です。


交尾中にメスに噛み付くオス/ Credit: Wolf Rock Dive Centre(youtube, 2023)

ただ野生下でこのような光景が観察されるのは極めて稀であり、過去の科学文献を調べても、交尾中のサメの噛みつきを捉えた研究はほとんどありません。

そのせいか、サメの性生活はいまだに多くが謎に包まれたままなのです。

一方、デラウェア大学の海洋生物学者ジェニファー・ワイフェルス(Jennifer Wyffels)氏は、カナダ海洋科学センターのリプリー水族館でシロワニの交尾行動を観察し、オスがメスに激しく噛みついて重傷を負わせる事例を目撃しました。


シロワニ/ Credit: ja.wikipedia

シロワニ(学名:Carcharias taurus)はネズミザメ目の一種であり、世界中の暖かい海に生息し、最大全長3.2メートルにまで成長します。

そこでワイフェルス氏ら研究チームは、米国東岸ノースカロライナ沖に分布するシロワニを対象に性生活の実態を調査することにしました。

その結果、過激すぎるシロワニの交尾の実態が明らかになったのです。

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咬み傷から性行為が盛んになるシーズンを特定!

本調査では、2005年から2020年にかけてノースカロライナ沖で撮影された686頭のシロワニの画像、計2876枚を分析しました。

これらの画像は研究者だけでなく、ダイバーやアマチュアの写真家によって撮影された膨大なサメ画像を保存するデータベース「Spot A Shark USA」から入手しています。

チームはこの画像を用いて、シロワニの部位ごとの咬み傷の発生率や重症度、原因などを分析。

その結果、交尾行動による噛みつきが野生下でも頻繁に起こっていることが確認できました。

しかも噛み付くのは常にオスだけでなく、メスの方も頻繁に噛みつき返していたことがわかっています。

さらにその傷跡は甘噛みなんて生やさしいものではなく、完全に肉が抉(えぐ)り取られた重症のものが多く見られたのです。


交尾中の噛みつきで肉を抉り取られたシロワニの画像/ Credit: Jennifer T. Wyffels et al., Environmental Biology of Fishes(2024)

ただチームはこれと別に、シロワニの咬み傷を調べることで交尾行動がいつ盛んになるかを特定できることを明らかにしました。

チームは水族館で観察されたシロワニの咬み傷の発生〜治癒までを追跡観察し、咬み傷を以下の4段階のステージに分けています。

・ステージ1:噛みつかれたばかりの新鮮な深い傷

・ステージ2:噛みつかれてから2週間以内で、治癒が始まり出した傷

・ステージ3:噛みつかれてから3〜6週間以内で、傷が閉じ始めて跡になる段階

・ステージ4:噛みつかれてから6週間以上が経過しており、傷跡が消失し始めている段階


水族館のシロワニから傷口が治癒するプロセスを観察して、4段階に分類/ Credit: Jennifer T. Wyffels et al., Environmental Biology of Fishes(2024)

その結果、メスにおけるステージ1の咬み傷は5月下旬から急増し、7月にピークを迎えることがわかりました。

これはノースカロライナ沖では、5〜7月の時期がシロワニの主要な交尾シーズンであることを示しています。

そして7月の終わりまでにはステージ2の傷も見られなくなり、ステージ3・4の治癒中の傷跡が多く観察されました。

一方でオスの咬み傷も5〜6月中にピークを迎えており、積極的な交尾行動の中でメスに噛みつき返される頻度も多くなっていると考えられます。


A:メスの傷跡の数とステージ、B:オスの傷跡の数とステージ/ Credit: Jennifer T. Wyffels et al., Environmental Biology of Fishes(2024)

また今回の研究からは、サメの傷口の治癒速度が異常に速いこともわかりました。

サメは皮膚を抉られて奥の筋肉組織が露出するほどの重傷を負っても、わずか22日前後で傷口は塞がり、85日後には傷跡がほとんど消失するまでに回復していたのです。

このような非常に高い治癒力があるおかげで、激しい性生活も可能になっているのでしょう。

もし人間が同じことをすれば、性行為による死人が続出してしまいますね。

参考文献

Scientists examine bloody mating wounds to reveal details of sharks’ secret sex lives
https://www.livescience.com/animals/sharks/scientists-examine-bloody-mating-wounds-to-reveal-details-of-sharks-secret-sex-lives

Male sharks aggressively grip females with their teeth during sex, scientists discover
https://nypost.com/2025/01/08/science/male-sharks-grip-females-with-teeth-during-sex-scientists/

元論文

Sand tiger shark Carcharias taurus mating season in the northwest Atlantic Ocean inferred from wound healing dynamics
https://doi.org/10.1007/s10641-024-01624-0

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部