歌番組でSixTONESを観るたびに、「あっ、あの松村北斗か…!」と驚いてしまう。映画やドラマで松村北斗を観ていると、SixTONESでパフォーマンスをする松村がイコールにならずに、一瞬、脳が混乱する。それだけ、“松村北斗”ではなく、役として作品に溶け込んでいるからだろう。そんな松村の俳優としての2024年の活躍は目覚ましいものだった。
■恋人でも友だちでもない、“同志”という関係性を表現した『夜明けのすべて』
2024年、まず話題を呼んだのが映画『夜明けのすべて』だ。瀬尾まいこの同名小説を映画化。PMSで月に一度、どうしても苛立ちを抑えられない藤沢さん(上白石萌音)と、パニック障害を抱える山添くん(松村)。自分ではどうしようもできないものを抱える2人の間には、やがて同志のような感情が芽生え始める…というストーリー。恋人でも、友だちでもない、“同志”という関係性がポイントだ。
上白石萌音演じる藤沢さんとの“同志”のような関係性が印象的だった『夜明けのすべて』 / Blu-ray 発売中 価格:5,280円 発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス [c] 瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
公開時に多くの人が言っていたが、こういったストーリーの場合、恋人や友だちになる場合が多い。男女ならばほぼ恋愛に発展するが、同志になるというのが大きい。いろんな壁を取っ払って、人間対人間としてコミュニケーションを取っている姿を演じるのはなかなか簡単にできるものではない。一言で「生きづらさを抱えている若者」と言っても、それをどう表現するか、共感を得るか、そして人にどうやってぶつかっていくか、というのは多かれ少なかれ難しいものだったのではないだろうか。松村はこの『夜明けのすべて』のほか、『キリエのうた』(23)、『ディア・ファミリー』(24)でも強い印象を残しており、第16回TAMA映画賞では最優秀新進男優賞を受賞した。
大泉洋演じる主人公に手を差し伸べる医者役で出演した『ディア・ファミリー』 / DVD 発売中 価格:4,400円 発売元:WOWOW 販売元:東宝 [c]2024「ディア・ファミリー」製作委員会
■不器用なシングルファーザーの葛藤や戸惑い、ときめきまで体現した「西園寺さんは家事をしない」
2024年夏に放送され、多くの人の心を掴んだドラマ「西園寺さんは家事をしない」。バリバリ働き、マイホームも購入した独身の西園寺一妃(松本若菜)と、西園寺の職場に転職してきた楠見俊直と彼の4歳の娘がひょんなことから一つ屋根の下で暮らすことになり、そのなかで“偽家族”というちょっと変わった関係が育まれていく。家族というものに少なからず屈託を抱えている西園寺さんと楠見が、試行錯誤をしながら“家族”の形を模索していくストーリーに、心揺さぶられた人も多いはず。
【写真を見る】松村北斗がシングルファーザーを演じ、娘役の倉田瑛茉とのやり取りに大勢が癒された「西園寺さんは家事をしない」 / Blu-ray BOX、DVD-BOX 2月28日(金)発売 価格:32,340円、26,400円 発売元:TBS/TBSグロウディア 販売元:TCエンタテインメント [c]TBSスパークル/TBS [c]ひうらさとる/講談社
この作品で松村は、シングルファーザーの楠見を演じた。父親役というのも新鮮だったが、ちょっと堅物で頑固で鈍い…という、いそうでいない人物をリアルに体現した。父親としての葛藤には涙し、西園寺さんへの想いに戸惑う姿にはみずみずしさを感じた。不器用さゆえに引き起こしてしまう、ときめきあるシーンの数々は暑すぎる夏のオアシスとなったのではないか。
また、倉田瑛茉演じる娘ルカとのやり取りに癒され、役柄を越えた本当の父と娘のような仲睦まじい姿にもほっこり。撮影を重ねながら、2人がどんどん仲良くなっていったのであろう空気感が観ている側にも伝わってきて口角が上がる。ドラマの公式Instagramアカウントでは、微笑ましい交流の様子もアップされていたが、役者として、人としての松村の温かみが感じられたことは間違いない。
■「アンサンブル」に『ファーストキス 1ST KISS』、実写版『秒速5センチメートル』などさらなる飛躍を予感させる2025年
2025年の6月18日に30歳という節目を迎える松村。今年もすでに注目作品がめじろ押しだ。まずは日本テレビ系「土ドラ10」枠で放送の「アンサンブル」。主演は川口春奈で、松村はその相手役を務める。現実主義の女性弁護士が、理想主義の部下と社内恋愛になるなか、そのライバル役として田中圭が登場する。松村と田中の恋愛バトルに発展するのかどうかはまだわからないが、毎話が待ち遠しくなることだろう。
川口春奈演じる現実主義の女性弁護士と恋愛関係になる理想主義の部下役で出演する「アンサンブル」
そして映画では『ファーストキス 1ST KISS』が2月7日(金)に公開となる。監督は『ラストマイル』(24)の大ヒットも記憶に新しい塚原あゆ子で、脚本は坂元裕二が手掛ける。結婚して15年目、倦怠期で不仲だった夫が事故死し、第2の人生を歩もうとした女性がタイムトラベルの術を手に入れる。過去へと向かった彼女は、そこで自身と出会う前の若かりし頃の夫と出会い、かつての想いを再確認する。女性を松たか子、過去の夫を松村が演じる。塚原監督が撮る松村には期待が高まるし、坂元脚本にマッチするであろうことも想像に難くない。
松たか子演じる女性の死に別れた夫の若かりし頃という役どころで出演する『ファーストキス 1ST KISS』 / [c]2025「1ST KISS」製作委員会
さらに、『秒速5センチメートル』が秋に公開予定になっている。原作は新海誠監督による2007年公開の劇場アニメーションで、新海作品としては初の実写化となる。『すずめの戸締まり』(22)では宗像草太の声を務めていた松村。新海作品との親和性はお墨付きだが、今度はそれをどのように実写に落とし込んでいくか、楽しみなところである。
「こんな松村北斗が観てみたい」という願望と、「どんな松村北斗が観られるのだろう?」という期待が交錯する2025年。これからも松村北斗から目が離せなさそうだ。
文/ふくだりょうこ