ドロ沼化する戦争、乱高下する株価、相次ぐ自然災害‥‥、悲鳴を上げる世界を尻目に、米大統領にあの男が返り咲いた。果たしてこの男は天使か悪魔か? 混迷の時代を読み解く水先案内人としてジャーナリスト・池上彰氏が登場。上下2回にわたり21世紀最初の四半世紀の節目となる2025年を徹底解説。第1回のテーマは「トランプ前と後」の世界!
──昨年11月の米大統領選でトランプ氏の再登板が決定。“アメリカファースト”の大統領復帰に、各国は戦々恐々としています。やはり今年はトランプ中心に世界は回るのでしょうか?
はい。そうですよね、1月20日の就任式の前から、もう大統領になったかのような振る舞いで、世界は早くも振り回されています。
──1期目とは違うことになるのでしょうか?
前回のトランプ政権では、政治の経験がまったくないため、共和党の主流派から推薦された人事をそのまま受け入れたわけです。で、めちゃくちゃなことを言うトランプと対立をして、「ユーアーファイヤード」と、どんどんクビにされるという事態が起きました。結果的にトランプは自分のやりたいことができず、「これは影の政府(ディープステート)が妨害しているんだ」という陰謀論にとらわれてしまいました。ですから、今回大統領になったら、自分のやることを妨害する人物は一切入れない。すべて忠誠心だけで選ぶぞ、と復讐に燃えているのです。
──もはや独裁者としか‥‥。
注目すべきは次のFBI長官にFBIを解体すべきだと主張する人間を起用しようとしていることです。これは、16年にトランプが大統領になった時に、ロシアが大統領選挙に介入したとされる「ロシア疑惑」をFBIが捜査したことに起因します。これをトランプは根に持ち「FBIこそディープステートの中心だ」と、幹部をクビにし、FBIを牛耳ろうとしているわけです。また、軍隊の中にもトランプに異を唱える幹部がいます。こちらも同じくクビにするリストができあがっています。
──警察、軍部を抑えるとどんなことが起きますか?
例えば、トランプは1月20日に大統領になったら、不法移民を全部追い出すと公言しています。今アメリカの不法移民は1100万人います。これを追い出すには、従来の不法移民を摘発する組織ではできません。ここに軍隊を使うというわけです。ところが、アメリカ軍は、法律上海外でアメリカを守るための組織であって、国内で使うことは許されていません。だから、移民を排除するためにアメリカ軍を使うのは、とんでもないと反対する軍人がいるわけです。トランプはその連中を全員クビにし、大統領の言うことを聞く軍隊に改造しようとしているのです。
──そこまで徹底的にやるんですね。
すべての人事は忠誠心だけで能力は無関係です。今回駐日大使に指名されたジョージ・グラス氏もトランプに莫大な政治献金をした人物です。いわば地位を金で買ったようなもの。実業家で、外交交渉の経験などありませんから、すべては未知数。何を言い出すかわかりません。トランプの言うことを忠実に実行しようとするでしょうね。
──本当にトランプ独裁が進むことになりそうです。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。
(つづく)