「ガンダム」シリーズのザクやジムは、その派生機の多さでも知られます。プラモデルのラインナップ拡充というオトナの事情はさておき、実在する戦闘機でもそのような例は見られるものでした。
映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』より、スレッガー搭乗機を立体化。「HG 1/144 ジム (スレッガー搭乗機)」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
【画像】中身は大違い! F-16戦闘機の「試作機」と「最新型」を見比べる!
「派生機」というのも「リアル路線」
「機動戦士ガンダム」シリーズのモビルスーツ(MS)における名脇役(ときに主役ともなる)に「ザク」や「ジム」といった量産機が存在します。これらのMSは多数の派生型が存在し、さまざまな用途や作戦に対応する汎用性の高さが特徴です。
この特徴は、実際の軍事兵器、特に戦闘機にも共通しています。現実の戦闘機も、多数の派生型を持つ例が数多く存在し、そのなかでも特に顕著な例がF-16「ファイティング・ファルコン」戦闘機です。
F-16は、1970年代にアメリカで開発されて以来、世界中で運用されてきた軽量多用途戦闘機です。その成功の背景には、基本設計の優れた汎用性と派生型の多様性があります。
基本型のF-16Aから始まり、多用途型のF-16C、さらに2025年現在最新鋭となる性能向上型のF-16Vなど、多岐にわたる改良型が登場しました。これらの派生型は、それぞれ異なる任務や運用要求に応じた結果ではなく、単一の設計によって構成されるものです。
F-16というベースはそのままで、エンジンや電子機器、武装などの搭載システムの変更によって違いが生まれます。これらを載せ替えることによって初期に生産されたF-16AでもF-16Vにアップグレードすることができ、現代の戦闘にも対応できるようになるのです。
F-16の派生型の中には、一見すると異色とも言える仕様のものがあります。その一例がF/A-16です。この機体は、地上攻撃能力を向上させるため、A-10攻撃機で使用されるGAU-8/Aアベンジャー 30mm機関砲を搭載しました。通常、戦闘機にこのような大口径の機関砲を搭載するのは稀ですが、地上軍を助ける近接航空支援という作戦効率の向上を目的としました。
このようにF-16が多数の派生型を持つ理由の一つは、同一機種を大量に生産することで、コストの削減と整備の効率化が図れる点にあります。量産効果により、1機あたりのコストが低下するだけでなく、部品の互換性や整備要員の訓練効率も向上します。そしてこれがF-16のシリーズ総計生産数4500機以上、初飛行から50年目を迎えてもなお量産が続いているという現代戦闘機としては破格の大成功につながった最大の要因であるといえるでしょう。
F-16のこの特長はモビルスーツの汎用性とも重なります。ザクやジムがさまざまな武装や装備を変更し宇宙戦闘、地上戦、砂漠から寒冷地までの多用な環境に適応するのと同様に、F-16も多用途性を最大限に活かして運用されています。実際の軍事兵器においても、単一のプラットフォームを基に多用途に展開する設計思想は、コスト削減と柔軟性の両立という観点から有効なのです。
ザクやジムが持つ多様な派生型と汎用性の高さは、現実の戦闘機、特にF-16の設計思想と多くの共通点を持っています。大量生産された基本型を基に派生型を開発することで、多様な作戦要求に対応しつつ経済的な利点を享受するという考え方は、宇宙世紀の戦争技術においても変わらない普遍的な原則といえそうです。