Credit: canva

森や草原を歩いていると、キノコが綺麗な円状に並んだ光景を目にしたことはないでしょうか?

これは「菌輪(きんりん)」という不思議な現象であり、海外では「妖精の輪(fairy ring、fairy circle)」と呼ばれています。

それは民間伝承において、小さな妖精たちが輪になって踊り、草を踏み均(なら)した痕跡上にキノコが生え出たものと伝えられるからです。

民間伝承における菌輪は様々な捉えられ方がされていますが、科学的に見ると、菌輪はどのように生じるものなのでしょうか?

そのプロセスの秘密を紐解いてみましょう。

目次

キノコの輪っかは妖精たちが踊った跡?菌輪はどうやって作られるのか?

キノコの輪っかは妖精たちが踊った跡?


環状に並んだキノコの輪っか「菌輪」/ Credit: ja.wikipedia

菌輪はキノコが環状に、あるいはその断片としての弧状に発生する現象であり、主に森林や草原、芝生や牧草地で見られます。

その多くは直径数十センチから数メートルのものが多いですが、菌輪を構成する菌類が生育し続ける限りは安定的に大きくなり、中には直径10メートル以上になるものもあります。

特に巨大なものですと、直径600メートル、菌輪の年齢が700歳にも達したケースがフランスで報告されています。

菌輪は草地の多い欧米諸国では決して珍しいものではなく、古くからその存在が知られてきました。

しかしその発生原理まではわからなかったため、国や地域ごとにユニークな解釈がなされています。

例えばイギリスの民話によると、菌輪はエルフやフェアリー、ピクシーといった妖精たちが輪になって踊り、草を踏み均した痕跡上にキノコが生え出たものだと伝えられています。

この捉え方は他の多くの地域でもメジャーなものであるため、菌輪は主に「妖精の輪(fairy ring、fairy circle)」と呼ばれるようになったのです。


「妖精の輪」を描いた1875年の絵/ Credit: en.wikipedia

スカンディナヴィアの民話でも、菌輪は妖精や魔女のしわざだと考えられており、妖精の踊りを意味する「älvdanser」と呼ばれます。

またドイツでは「Hexenring」、フランスでは「Rond de sorcière」と呼ばれますが、いずれも意味するところは「魔女の輪」です。

このように菌輪は妖精や精霊が踊った場所であることから幸運のしるしと見なされる場合もありますが、反対に「菌輪の内側は妖精や魔女の領域であり、その中に入ると災いが訪れたり、病気になる」などの不吉なしるしとして解釈されることもありました。


妖精の踊りの輪から引っ張り出される男性の描いた1880年の絵/ Credit: en.wikipedia

また菌輪は妖精の世界への入り口であり、別の場所に行き来できる「異世界への扉である」といった解釈がなされる地域もあります。

菌輪は良くも悪くも人々の様々なイマジネーションを掻き立ててきましたが、これで終わりでは面白くありません。

では菌輪は科学的に見ると、どのようなプロセスで形成されるものなのでしょうか?

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菌輪はどうやって作られるのか?


菌輪はどうやって形成されるのか?/ Credit: en.wikipedia

考えてみれば、なんの口約束もしていないはずのキノコが綺麗な円環状に並べることはとても不思議です。

彼らはどうやって円環状に生え出ることができるのでしょうか?

まずもって、キノコとは菌類が胞子を散布するために作り出す器官(=子実体)であり、地上に姿を現した一部分だけのことを指します。

しかし菌輪の形成にとって重要なプロセスは、目には見えない地中で始まります。

菌類は地中において「菌糸(きんし)」と呼ばれる小さな糸のネットワークを伸ばしています。

ここで大切なのは菌類が菌糸を放射状に拡散することです。

つまり、菌類は自分を中心にしてその周辺に菌糸を広げることになり、拡散された菌糸の生育に伴って地上にキノコ(子実体)が姿を現します。

すると時間が経つにつれて古びた中心のキノコから死滅していきますから、周辺部分のキノコだけが後に残り、見事に菌輪が出来上がるのです。


菌輪ができる仕組み/ Credit: canva,ナゾロジー編集部

菌輪はこの菌糸の拡散と死滅を繰り返しながら、どんどん菌輪の直径を大きくしていきます。

ただし菌輪が綺麗に形成されるには、その土地の気温や湿度、光が最適であり、土壌の栄養分などが均一でなければなりません。

そのため、キノコが生えるところにはどこにでも菌輪が現れるわけではないのです。

また菌輪は地上の植物にも影響を与えることがあります。

例えば、菌糸が土壌中に広がると、植物の成長に欠かせない有機物を分解してしまうため、地上の草が枯死する場合があります。

これによって円環状に草がなくなったり、草の色が周りに比べて変色するケースが見られるのです。


菌輪によって異常成長した草/ Credit: ja.wikipedia

これと反対に、菌類の中には植物ホルモンの一種であるジベレリンを産生する種がいます。

それによって、今度は逆に植物の成長が促され、円環状に草が異常成長することもあるのです。

それを示したのが上の画像になります。

以上が菌輪の形成される科学的な仕組みです。

菌輪は日本でも湿度の高い梅雨時期などに、芝生のある公園や森林の開けた場所に現れることがあります。

見つけた際は、ぜひその神秘的な姿を楽しんでください。

参考文献

Why Do Some Mushrooms Grow In Perfect Circles?
https://www.iflscience.com/why-do-some-mushrooms-grow-in-perfect-circles-77468

What’s a fairy ring of mushrooms? Why is it a circle?
https://earthsky.org/earth/fairy-ring-from-mushrooms/

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部