「キレイになあれ、まだ長生きしなくっちゃ」メイクで認知症予防や抑うつの改善を目指す”介護美容”セラピストの挑戦

エンゼルケアまで一貫して請け負った92歳の女性

これまで多くの方にメイクを施してきた吉岡さんに思い出に残っている話を聞いた。

「同郷出身の92歳の女性でしたが、フェイシャルパックをすると、“キレイになあれ” とうれしそうに何回も唱えていました。“まだ長生きしなくっちゃ” と言っていたのですが、翌日に亡くなりました。そこでエンジェルメイクまでさせていただきました」

遺族のためにも、生前と違う雰囲気のメイクはできない。

「その方は、穏やかな性格だったため、アイメイクをきつくしない・チークもほんのり塗る・眉毛も優しい感じに引くなどを心掛けました」

亡くなると肌は乾燥する。なので、シアバター入りのクリームをつけたり、クリームファンデーションを使ったりと、生前と変わらぬメイクをして、送り出したという。

遺族にとっても、美しい状態で旅立つ姿は、大きな癒しになったことだろう。

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介護経験がないと分からないサービスの提供

今後の目標を聞いた。

「メイクアップアーティストの方や、ネイリストさんなどとは違った視点のサービスで、差別化していきたいです。

高齢者の方も、日ごろは来ない人でも、来るときは背伸びをしてよく見せようと頑張ります。

お婆ちゃんが乙女になってしまうような、介護用品を売りながら、サロンを併設したお店を持つのが夢です」

化粧療法は、高齢者の心身の健康やQOL向上に大いに貢献する。

吉岡さんのような取り組みにより、化粧は美容だけでなく、認知機能や抑うつの改善、日常生活動作の向上に役立つことが科学的に証明されている。

これからもこの分野は注目されるだろう。

取材・文/田口ゆう