BUBBLE-B
突き抜けた男たちの魂の叫びを届ける、「死ぬ前までにやっておくべきこと」。今回は、日本全国のチェーン店の本店を訪ね歩くブログ『本店の旅』を主宰する人気ブロガーBUBBLE-B氏にインタビュー。全国に点在する地域固有のチェーン店の根強い人気の秘密や、その取材の過酷さを聞き出した。
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飲食チェーン店――。
それは日常の中に埋没した奇跡。全国どこにいても同じ味、同じ環境で「ハズレのない馴染みの味」を提供するというチェーン店でありながら、近年では各地域でしか展開していない地元の味を出す“ローカルチェーン店”が注目を集めている。
たとえば、北海道・函館『ラッキーピエロ』、『金沢まいもん寿司』、大阪『串かつだるま』に福岡『天麩羅処ひらお』。そんな『ローカルチェーン店』を求めてさすらう旅人がいる。
人呼んで『チェーン店トラベラー』BUBBLE-B。彼は日本全国600店以上のチェーン店を巡礼し、喰うかい上人然りと食徳を積んできた食の旅人だ。
「ローカルチェーン店なんて、何も特別な店じゃない。『すごい美味しい』なんて言う人もあるけど、たぶん錯覚ですね。自分の生活エリアにない珍しい食べ物だから美味しいと思っているだけで、その地域の人にとってはごくごく当たり前の味。つまり、違う地域の当たり前を感じるのがローカルチェーン店の醍醐味。これが単純なようで知れば知るほど奥が深くて、人生を狂わせてくれる。いや、本当に楽しいからやっているんですけどね」
現在の彼は滋賀県に本拠地を構え、チェーン店トラベラーだけでなくDJ、青島ビール公式アドバイザー、全日本麻婆豆腐愛好連盟(全マ連)会長、飲食PR、飲食コンサルタントなど、謎に満ちた経歴と肩書きに彩られている。
2007年。全ては一杯のラーメンから始まった。
東京の大手企業に勤めるサラリーマンだった彼は、何度も啜ってきた京都の『天下一品』総本店のスープを改めて味わったことで確信した。
『本店巡礼』を上梓
BUBBLE-B
このスープ、濃いのにとてもまろやかだ。本店は、他店とは何かが違うのではないか。
でも、そのことを店員さんに尋ねても「他の店とまったく同じです」と言われるばかり。
しかしながら、『本店はやっぱりうまい、と感じた気持ちは否定できない』と、“本店パワー”への興味はさらに上昇。おそらく他のチェーン店にも本店パワーはあるはずだ。
そんな仮説に基づき、ついに彼は日本全国のチェーン店の本店を訪ね歩くブログ『本店の旅』をスタートさせてしまう。
「熱はまだまだでしたが、11年にTBSラジオのライムスター宇多丸さんの番組に呼ばれて、『チェーン店の本店がうまいかもしれないよ』というぼんやりした話をしてきたんですね。そしたらそれを聞いていた大和書房の人から出版の話が来て、13年に『本店巡礼』という書籍を出しました。そこで全国チェーンの本店を行脚していくんですが、全国展開のチェーンって𠮷野家とかスシローぐらいで、実は数が少ない。持ち駒もどんどん減るし、本も出して満足していたときに、京都に転勤になったんです。ああ、これで東京も離れるし、終わりだなと。一度は覚悟しました」
京都に赴任した彼がそこで見たものは、未知なる地方の雄・ローカルチェーン店の可能性だった。
関西、東海、北陸、中国と、近隣にも宝の山が埋もれている。ああ、俺はチェーン店の何も分かっていなかった――。
思いを改めた彼のチェーン店行脚、第二章がここに始まった。
「そこからが本番というか、地元モードに変わってからが茨の道。全国チェーン探訪のときは、身近にあるチェーン店の1号店に行く特殊性を楽しむアプローチでしたが、ローカルチェーン店だと『1号店は違う』と言っても身近にない店だからピンとこない。これは真剣にやらないと通用しないなと、どんなローカルチェーン店がどこにあって、その歴史はどうなっているのかを徹底的に調べ上げるところから始めました」
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ローカルチェーン捜索はまるで川口浩探検隊
ローカルチェーン店とはひと口に言っても、全てが駅前にあるとは限らない。
アクセスは電車やバスでも届かぬこともあれば、八甲田山のように雪中行軍を強いられることもあったりと、その捜索はアマゾンへ行く川口浩探検隊と何ら変わりがない。
「出張のついでに」「帰りに観光でも」なんて甘い考えでは成就できない。この旅は「ローカルチェーン店に行く」という目的のため――と割り切った。
「僕の旅は、行き当たりばったりはしません。行く土地には当該の店がいくつもあるので、事前に営業時間を調べて、全部のお店を効率よくまわれるように、分刻みでスケジュールを決めています。そこまでやらないと、とても回れやしないですよ。食べられてもランチ2にディナー2の1日4食。その店で何を食べるのかも厳選していますが、一番つらいのが、やっぱり同じメニューが続くときですね。昨年、回転寿司の本を作ったときなんて、2泊3日の10食が全部寿司で、名物のソースカツ丼が食べたい…と涙を飲むようなことばかり。一体、俺は何をしているのか…と、わけが分からなくなりましたよね」
彼の熱意により、“「本店の旅」は日本一濃密なローカルチェーン店の情報が載っているブログ”と関係者の間でも評判となる。
だが、もっとやれる。野心が蠢く。
19年12月。BUBBLE-Bは突き抜けた。安定をほっぽり投げて、会社を辞めてしまったのだ。
(次号、中編に続く)
取材・文/村瀬秀信
「週刊実話」1月23日号より
BUBBLE-B(バブルビー)
昨年、自費出版で発売した『ローカル回転寿司チェーン店のススメ』『ローカルうどんチェーン店のススメ』が好評発売中。お求めは「メロンブックス」「COMIC ZIN」「シカク」ほか、「BUBBLE-Bストア」(https://speedking.thebase.in/)にて。また、Amazon、Kindle、電子書籍でも発売中。