混沌を極める室町時代を舞台に、乱れた世を正すべくアウトローたちが巨大権力に戦いを挑む!『室町無頼』(1月17日公開/IMAX先行公開中)は直木賞を受賞した垣根涼介による時代小説が原作で、『22年目の告白―私が殺人犯です―』(17)や『あんのこと』(24)などエンタテインメントから社会派まで幅広く手掛ける入江悠監督の最新作。主演をいまや国民的スターとなった大泉洋が務め、剣の達人役として本格的な殺陣やアクションに初挑戦する。
時は1461年、応仁の乱前夜の京(みやこ)。大飢饉と疫病が同時に発生したことで加茂川べりには死体が放置され、人身売買や奴隷労働が横行、かつてない格差社会となっていた。なにものに縛られず、自由に己が赴くままに生きる蓮田兵衛は、そんな世に手をこまねくだけの幕府を目の当たりにし、ついに倒幕を決意。そんな彼のもとには、元浮浪児だがすさまじい武術の才能を秘めた才蔵をはじめ、抜刀術の達人、棒術使い、金棒の怪力男、弓の名手らアウトロー=無頼たちが集結していく。しかし、暗黒時代の夜明けを目指して戦う彼らの前に、兵衛のかつての悪友である骨皮道賢率いる幕府軍が立ちはだかる。
強大な幕府軍に民衆も巻き込んだ兵衛たちが戦いを挑む! / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
つかみどころがなく一見いい加減だが、一人で大勢の敵を圧倒してしまう剣技を持つ兵衛に大泉がエネルギッシュに命を吹き込み、周囲を引きつける求心力あるキャラクターとして体現する。兵衛に拾われたことから大きく運命が動きだす才蔵を、「なにわ男子」の長尾謙杜が棒術の特訓にも励みながら演じ切り、超絶アクションを披露。さらに、兵衛の師で才蔵に棒術を教え込む老師役に柄本明、民を虐げ、贅沢にふける有力大名の名和好臣役で北村一輝、高級遊女にして混沌の世と無頼漢たちの間を漂う絶世の美女、芳王子役で松本若菜、そして堤真一が兵衛の悪友にして、宿敵となる骨皮道賢役で出演している。豪華キャストが集結し、不安が広がる現代社会に向けて痛烈なメッセージを届ける新時代のアクションエンタテインメントとなった『室町無頼』。数々の映画に触れ、語り部として観客との橋渡し役を担ってきたプロは本作をどう観たのか?レビューと共に作品の魅力、見どころを紹介したい!
兵衛に拾われる青年、才蔵を演じる長尾謙杜 / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■テストには出ない処世術を教えてもらったよう
一揆も戦も無頼男子たちにかかると運動会やアスレチックのようで、兵衛たちがなんの恐怖もなく楽しそうに試練を乗り越える姿に痺れました。対して、物価高や増税をなすすべもなく受け入れる令和の人々…。現代人に足りないのは無頼パワーかもしれません。野山を駆け回り、大自然の中で武術の稽古をする才蔵の姿も印象的でした。室町時代の民衆は泥にまみれながら、大地のエネルギーを吸収していたのでしょう。だんだん土や泥で汚れた人々の姿が、天然の泥エステのように見えて羨ましくなりました。死と生がせめぎ合い、アドレナリンが渦巻く混沌の時代。歴史の授業では応仁の乱ばかりフィーチャーされていましたが、テストには出ない処世術を教えてもらったようです。
(コラムニスト・辛酸なめ子)
血の滲む修行を経て、六尺棒を武器に“無敵の棒術”を身につけた才蔵 / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■時代劇に苦手意識がある方でも楽しめる非常に明快な作品
主人公・蓮田と、彼の仲間が巨大権力へ挑む一部始終をエンタメ色全開で描いており、時代劇に苦手意識がある方でも楽しめると感じた非常に明快な作品です。渾沌とした世を無骨でバイタリティ溢れる登場人物が、まさに時を駆けるように生き抜き、そんな彼らが少しずつ団結していく様子を情緒に頼らずリズミカルに描き切っているところが印象的でした。終盤、蓮田を中心に民衆が一丸となり松明を持って京の都を疾走したり、身一つや六尺棒で権力へ立ち向かい一揆を起こしたりする場面は迫力満点で清々しさがありました。そして、蓮田を慕う才蔵が特に存在感を放っており、蓮田と才蔵の師弟の物語、才蔵の成長譚としても魅力を感じた作品です。
(アーティスト、俳優・石野理子)
松明を掲げて京の都を疾走する一揆勢 / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■無敵の強さを誇る大泉洋と悪漢・堤真一とのライバル関係が身悶えするほどいい!
これは時代劇好きじゃなくてもわかる想像以上の大作だ。現代からみたら何もないような時代にあらゆるエンターテイメントが詰まっている。残虐非道な野武士に成り上がり。飢饉にあえぐ庶民と富を貪る幕府。刀、槍、弓と多彩なアクションに少年の修行と成長。無敵の強さを誇る大泉洋と悪漢堤洋一とのライバル関係も身悶えするほどいい!さらに貨幣経済が広まったと言われる室町時代の経済状況が、現代人の我々との接点、ある種の拠り所となって共感し、そして起きる一揆!この企画、この原作と入江悠監督が合わさってこれほどの大作娯楽映画ができるとは…。少し少年マンガのように楽しさが行きすぎてるかもしれないが、現代の感覚で余す所なく楽しめる秀逸な映画になっている。
(インフルエンサー・おまけの夜)
【写真を見る】己の腕と才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人を演じた大泉洋から目が離せない! / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■武者震いするほどカッコイイ男と女のヒーロー映画だった
大泉洋だけが主人公ではない。この映画は時代劇であり、アクション映画であり、武者震いするほどカッコイイ男と女のヒーロー映画だった。過去の物語ではなく、いま、正義を胸に立ち上がる私たちへの応援歌なのだ。
(映画パーソナリティ、映画評論家・伊藤さとり)
兵衛の悪友にして宿敵となる骨皮道賢を演じる堤真一 / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■マカロニウェスタン風の“無頼漢”は、不正や不道徳がまかり通る現代を生きるわれわれにとって、真のヒーローになり得る
時代のなかで踏み潰され、忘れ去られる者たちの側に立つ時代劇を待っていた。日本では民衆による革命は起こらなかったというが、歴史上おびただしい数の“一揆”が起こっている。立ち上がったのは、重い負担を余儀なくされた農民であり、反旗を翻した武士たちだ。本作のマカロニウェスタン風の“無頼漢”は、大きな力に与しない場所にいるからこそ、不正や不道徳がまかり通る現代を生きるわれわれにとって、真のヒーローになり得る。そして“六尺棒”を持った少年の怒りに満ちた奮闘は、侍社会の欺瞞を見抜く主人のために、死にものぐるいで腕を振るう男の活劇を描いた、70年前の東映時代劇『血槍富士』(55)の“魂”を甦らせた。
(映画評論家・小野寺系)
密かに幕府に不満を持つ者たちを集め、一揆に向けて時を見計らっていた兵衛 / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■国も時代もクロスオーヴァーして、ひたすらエンタテインメントにこだわっている
国も時代もクロスオーヴァーする、無国籍活劇映画。あの入江悠監督が、室町時代を舞台にどんな戦国アクションを見せてくれるのかと思ったら、まさか『荒野の七人』(60)や『ワイルドバンチ』(69)のようなウエスタン調で攻めてくるとは。コメディに定評がある大泉洋や堤真一といった役者を擁することで、全体をカラっとしたトーンで統一しつつ、“滅びの美学”もきっちりと刻み込む。おまけに初期ジャッキー・チェン映画を彷彿させるような特訓シーンもあるのだから、タマらない。これはもう、演舞のような剣技&大胆な知略によって繰り広げられる、無国籍活劇映画。国も時代もクロスオーヴァーして、ひたすらエンタテインメントにこだわっている。ただただ愉快痛快なり!
(ポップカルチャー系ライター・竹島ルイ)
まるでジャッキー・チェン映画のような修行シーンにも注目! / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
■アクチュアリティを纏い、様々なジャンルムービーを取り込む“大きな器”としての時代劇の強みも示す
まず、白土三平の傑作漫画「忍者武芸帳 影丸伝」のように無類におもしろい。原作小説の志を継ぎ、無策で格差が広げられた現代社会へのレスポンスになっており、大泉洋演ずる実在の侍・蓮田兵衛が、剣と知略に長けた首魁・影丸みたいにとても魅力的なのだ。時代劇とは「作り手たちの“時代相”自体を映しだす劇」でもある。で、この入江悠監督の新作はアクチュアリティを纏い、様々なジャンルムービーを取り込む“大きな器”としての時代劇の強みも示す。アウトサイダーを描いた原点の『SR サイタマノラッパー』(08)ファンは無論、入江組初参加の長尾謙杜ファン、そして熱烈な時代劇ファンも観終わって大きくThumbs upするはず。なかでも終盤の驚異的な長回し(と、直後の不意打ちショット!)が最高だった。
(映画評論家・轟夕起夫)
兵衛のもとには、抜刀術の達人、槍使い、金棒の怪力男、洋弓の朝鮮娘らアウトローたちが集結していく / [c] 2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
時代劇の枠に収まらない、エンタテインメントとしてのおもしろさが純粋に追求された『室町無頼』。そして、強い志を持って世のために尽くそうとする兵衛や才蔵をはじめ、アウトローたちの姿には胸を熱くするものがある。本作を称賛する映画のプロたちから届けられたコメントの数々も参考にしながら、劇場で繰り広げられる自由の民の咆哮を受け止めてほしい!
構成・文/平尾嘉浩