垣根涼介の同名小説を入江悠監督が映画化した本格アクション時代劇『室町無頼』が、いよいよ1月17日(金)より全国公開となる。混沌の世となった室町時代を舞台に、巨大権力に戦いを挑んだ無頼=アウトローたちの姿を怒涛のアクションと共に描いた本作は、スカッとする爽快感と情熱の湧き上がる1作として完成。SNSなどで映画紹介漫画を発信している漫画家の大友しゅうまも、「僕自身、これまであまり時代劇を観てこなかったので『わかるかな、大丈夫かな』と思っていたんですが、前知識なく楽しめたのはもちろん、ものすごくカッコいい映画でした!」と興奮しきり。とりわけ、アウトローたちを束ねる蓮田兵衛(大泉洋)と、彼のもとで成長していく才蔵(長尾謙杜)の築く師弟関係に魅了されたという。そこで今回は、「熱い展開を見たいという方にオススメしたい映画」と力を込めた大友による本作の感想を、描き下ろしの漫画と共にご紹介する。
■「兵衛の生き様がカッコいい!」
本作は“応仁の乱”前夜の京(みやこ)を舞台に、日本史上、初めて武士階級として一揆を起こした実在の人物、蓮田兵衛の知られざる戦いを描く本格アクション時代劇。
剣の達人である兵衛として、“大泉洋史上最高にカッコいい男”を熱演! / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
大飢饉と疫病が国を襲うなか、時の権力者は享楽の日々を過ごし、民を見殺しにしていた。そんななか、剣の腕と己の才覚だけで混沌の世を泳ぐ自由人である兵衛は、各地を放浪しながら暗黒時代を見つめていた。一方、天涯孤独の少年、才蔵は兵衛に見出され、鍛えられ、厳しい修行を経て超人的な棒術を身につけていく。時が来たことを確信した兵衛は、才蔵をはじめとする個性たっぷりのアウトローたちを束ね、巨大な権力に向けて都市暴動を仕掛ける。行く手を阻むのは、兵衛の悪友にして宿敵である、洛中警護役の骨皮道賢(堤真一)。兵衛らは勝率0に等しい無謀な戦いに挑んでいく。
混沌の室町時代がスクリーンに映し出される / 漫画/大友しゅうま
これまで映画であまり描かれてこなかった、“応仁の乱”の前夜を映しだした本作。入江監督は風や砂塵の舞う光景を作りだし、雨が降らず乾ききった室町を表現。延べ人数5000人に及ぶエキストラを含め、体や顔、歯や着物まで泥や黒ずみを加えながら、当時を生きる人々の様子をリアリティと共に浮かび上がらせている。大友は「当時の京は、2か月で8万を超える死体が積み重なったと言われているそうです。飢えている人の描写も真に迫っていて、500年以上前の日本にあんなにひどい状況があったのかと驚きました」とスクリーンに広がる惨状に衝撃を受けつつ、「『北斗の拳』で描かれた、荒廃した世紀末を思いだした」と話す。
多面的な魅力を持つ兵衛。周囲を巻き込んで虜にしてしまう人間力が、大泉の姿と重なる / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
そんな時代に風のように現れるのが、大泉洋演じる蓮田兵衛だ。大友は、「とにかく兵衛の生き様がカッコいい!」と惚れ惚れ。
「冒頭では兵衛が関所破りをしますが、そこで彼はいきなり、役人を斬り付けます。『役人を斬るの!?』とびっくりしましたし、そういったなにをするかわからない、どこか悪いこともしている人だというアウトローな一面も魅力的でした。大泉さんの殺陣もすごい迫力で、兵衛の剣豪としての強さが見えるようでした」と無頼としての魅力に言及し、「その一方で兵衛は、飢えている民衆に食べ物を分け与えたり、自分が得た報酬を人にすべてあげてしまったりする。お土産として村の女性たちに髪飾りをあげるシーンがありましたが、僕はあの場面もとても好きで。『お前にはもったいないかな』と冗談混じりに話しながら、みんなを笑わせたりしますよね。コミュニケーション能力が高いなと思いましたし、あれは男性にも女性にもモテるなと思いました」と兵衛の多面性に釘付けになったそうで、「コミュ力が高いという面でも、大泉さんに兵衛役はぴったりだなと思いました」と役者とキャラクターとのハマり具合について称える。
■「長尾謙杜さんのお芝居に心を掴まれた」
そして大友が「心を掴まれた」と語るのが、才蔵の成長だ。餓死寸前だったところを生き延びた才蔵は、兵衛と出会い、彼に憧れ、その生き様を追いかけていく。
兵衛の生き様に惚れ込んだ才蔵は、彼の元で成長していく / 漫画/大友しゅうま
大友は「最初は兵衛目線で映画を観ていたんですが、次第に才蔵に感情移入していきました。才蔵と同じように、兵衛に憧れるような目線で一緒に熱くなりながら観ていたように思います。一番好きなキャラクターですね」と打ち明け、「登場シーンの才蔵は、真っ黒で汚れています。髪の毛もボサボサで、暴れまくる“やんちゃな少年”といった印象でした。それが兵衛と出会ったことで、どんどん“青年”として成長していく。本当にかなりの年月が経過しているんじゃないかと思うくらい、才蔵が違った表情を見せている」と感心しきり。
【写真を見る】『室町無頼』の感想漫画を大友しゅうまが描き下ろし! / 漫画/大友しゅうま
とりわけ胸が躍ったのが、「才蔵の修行シーン」だという。兵衛に見出された才蔵は、兵衛の師匠でもある棒術の達人、唐崎の老人(柄本明)のもとで厳しい修行に励んでいく。「琵琶湖で水の上に立たされた才蔵が木の板に杭を打ったり、あちこちから襲いかかってくる無数の刃物を避けたりと、独特な修行方法ばかりでものすごくおもしろかったです。どこか昔のスポーツ漫画のようで、ワクワクしました」と熱っぽくコメント。
才蔵の修行シーンは、胸が躍ること必至! / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
「前情報を入れずに映画を観たので、最初は才蔵を演じているのが『なにわ男子』の長尾さんだと気づきませんでした。感情があふれ出して叫ぶシーンなど『この役者さん、めちゃくちゃお芝居がうまいな』と思いながら観ていて、だんだん『あれ、まさか…。これ長尾さん?』と感じ始める瞬間もありつつ、エンドロールで名前を確認して『マジか!』と(笑)。少年らしさを表現するのもお見事で、本当に驚きました。新鮮な長尾さんの表情を目にした気がしています」と賛辞が止まらない。
長尾謙杜の演技にシビれる!才蔵の成長と棒術によるアクションを見事に体現した / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
兵衛と才蔵が結んでいく師弟関係には、「カッコいいものが詰まっていた」とも。「才蔵は師匠の背中を追いかけ、兵衛は才蔵に生き様を示していこうとする。才蔵が兵衛から受け継いでいくものまでが描かれていて、これは熱い展開だなと思いました」と興奮を口にし、「道賢も、信念が通ったキャラクターでカッコよかったですね。クライマックスで道賢が兵衛に見せた表情もすばらしかった」と兵衛を中心に紡がれる男たちのドラマに胸を熱くしていた。
■「アクションもカッコよく、時代劇ってこんなに熱くなれるものなんだと発見がありました」
無頼たちの戦いの幕が上がる! / 漫画/大友しゅうま
ドラマチックな物語を、ド迫力のアクションと共に堪能できるのが本作の醍醐味だ。大泉は、今回映像で本格的な殺陣に初挑戦。長尾は“棒術”という珍しいアクションに挑み、アクションにも定評のある堤が魅せる殺陣には、気迫とオーラがにじむ。三者三様のアクションが炸裂する本作だが、幕府への怒りを溜め込んだ一揆勢を率いて、兵衛が暴動を巻き起こすシーンも圧巻だ。
クライマックスはド迫力のアクションを堪能できる / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
「暴動のシーンは、ものすごい迫力でした。これだけの人を集めて、どうやって撮影をしたんだろうと思うくらい」と目を丸くした大友は、「兵衛や才蔵だけではなく、一揆に加わっている民衆一人一人の顔や動きに着目して観てみたら、それぞれが鬼気迫る表情をしていました。エキストラの方々のお芝居もすごかったですね」と隅々まで熱気が焼き付けられていたと話し、「もし自分がこの民衆のなかの一人だったとしたら、果たして命を落とすかもしれない一揆に参加するだろうか?と考えたりもしました。でもあれだけ苦しい生活を強いられていたら、きっと参加したいと思ったはず。また兵衛の姿を見ていると『自分もこの人と行くぞ!』という気持ちになれたと思います。一揆に巻き込まれているような、参加しているような感情になりました」と感情ごと飲み込まれるようなシーンだった様子。
スクリーンの隅々にわたって熱気が込められている / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
アウトローたちがたった9人で幕府軍に戦いを挑むクライマックスにかけて、怒涛のアクションが続く。大友は「兵衛が二刀流で戦う瞬間や、才蔵が棒術で何人もの敵を一気に倒していく場面もめちゃくちゃカッコよかったですし、あそこまでキレキレのアクションを見せるためにはどれほど特訓をしたのだろうと驚きました。またアウトローたちもみんな個性豊かで、それぞれが弓や大きな金棒などいろいろな武器で戦う展開も少年心をくすぐるものがありました」と笑顔を見せる。
大泉洋&堤真一による一騎打ちのシーンも圧巻だ / [c]2016 垣根涼介/新潮社 [c]2025「室町無頼」製作委員会
「『カッコいい映画』という言葉が、ぴったり」と語った大友。「2024年は『侍タイムスリッパー』がヒットしたりと、時代劇に脚光が当たりました。僕自身、時代劇って勉強しないとわからないのかな、難しいのかなと思っていたんですが、いざ観てみるとまったくそんなことはなくて。自分と同じ目線、同じ世界の物語として楽しめました。『室町無頼』を観て、時代劇ってこんなにも熱くなれるものなんだという発見がありました。少年漫画が好きな人ならきっとハマると思いますし、熱い展開を見たいという方にはオススメの映画です!」と太鼓判を押していた。
取材・文/成田おり枝