メガバンクの貸金庫から10億円もの金品を盗んでいた女子行員ついに逮捕——。警視庁捜査2課と練馬署は1月14日、三菱UFJ銀行の貸金庫から多額の金品を盗んだとして東京都練馬区谷原の元行員、今村由香理容疑者(46)=すでに懲戒解雇=を窃盗などの容疑で逮捕した。被害に遭った顧客は60人以上にのぼるとみられ、同行は昨年12月16日に半沢淳一頭取が謝罪会見に追い込まれるなど社会問題化していた。
「見た目は普通の主婦って感じですよ」
今村容疑者は練馬支店に勤務していた昨年9月ごろ、同支店の貸金庫に男性客2人が預けていた金塊約20キロ(約2億6000万円相当)を盗んだ疑いで逮捕された。
同行の内部調査では、今村容疑者は玉川支店に勤務していた2020年ごろから貸金庫に預けられた顧客の金品を盗むことを繰り返しており、被害総額は10億円規模とみられている。
この問題を巡っては同行が昨年11月22日、元行員が貸金庫の資産を窃盗していたという概略を公表、調査を進めたうえで先月、頭取が謝罪会見をするという異例の展開をたどった。
今村容疑者は貸金庫の予備鍵を保管するキャビネットの管理責任者を務めており、無断で鍵を開けては犯行を繰り返していたとみられる。
半沢頭取はこの中で「本人への調査で『投資などに流用した』という供述を得ています。ただ、なぜここまでの犯行に手を染め、これだけ多くのお客様から資金を窃取するような行為にまで至ったか、十分な動機の解明ができていない状況です。今後さらに、警察の捜査の中で明確になっていくと思います」と述べ、捜査の行方が注目されていた。
メガバンクの信用を完膚なきまでに失墜させた10億窃盗女は、どんな生活をしていたのか。
自宅は練馬区の一角で、周囲には畑や古くからの民家もまだ多く残るエリアにある木造二階建て住宅。今村容疑者はここで夫や義父とともに生活をしていた。
玄関先には庭木の手入れに使う脚立や植木バサミなどが無造作に置かれ、駐車場に停めた車も車検を幾度となくくぐり抜けてきたと思われる、古びたファミリーカーだ。
自宅からうかがわれるのは、「10億円」とはあまりにも不釣り合いな、派手さの微塵も感じられない生活ぶりだった。
成人の日には自宅前で娘と思しき振袖姿の若い女性を見送っていた。その姿はショートカットの、どこにでもいる主婦にしか見えない。自宅からうかがわれるのは、「10億円」とはあまりにも不釣り合いな、派手さの微塵も感じられない生活ぶりだった。
近くに住む女性はこう証言した。
「今村さんは会えばハキハキと挨拶もしますし、明るい方ですが、近所づきあいという意味ではほとんどないです。家にはご主人とそのお父さんとで暮らしていますよ。子どもさんの姿は見たことがありませんが、直接聞いたわけではないので詳しいことはわかりません。
こちらに嫁いで来られてもう10年以上は経っていると思いますけどね。そもそもご主人のお母様がこのあたりの農家で土地を持っていたこともあり、裕福なご家庭だとは思います。ご主人のお父さんも昔は銀行に勤めていたので、お金持ちの御一家という印象ですね」
夫の母親が亡くなって以降、今村家は裏手の畑を駐車場にして月極で貸し出すようになったという。女性が続けた。
「私もその駐車場を借りているのですが、先月末の12月30日に駐車料金1万4000円を持参したときは、今村さんが対応してくれました。普段はお義父さんが対応してくれるんだけど、その時は不在だったのかもしれませんね。
彼女に会ったのはこの時が最後ですけど、変わった様子もなく『ありがとうございます。来年もよろしくお願いしますね』と言っていました。今村さん自身は派手な生活をしているという印象はありませんし、見た目も普通の方で、少しぽっちゃりした『主婦』って感じの雰囲気の方ですよ」
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「由香理は会えないって言っている」
一方、近くに住む男性の印象はかなり異なるものだった。
「今村由香理さんでしたら、目つきが険しくて気性も荒いというイメージがあります。というのも数年前、近所の方とトラブルになっていたことがありまして。原因などは知らないのですが、夜に女性が怒鳴る声がするので確かめてみたら、今村さんだったんです。それも誰かと対面して怒鳴っているわけではなく、一方的に家の中にいる人に向けて怒声を放っていたんですよ。その姿が印象に残っているので、気が強く、激しい方という印象がありますね。
お義父さんに関しては、昔から住んでいる方で町内会長を務めたりしていたこともありましたし、土地持ちという話を聞いたことがありましたので、名士というか、裕福な一家なのだろうとは思っていました」
しばらくして、今村容疑者の自宅の勝手口から、義父がゴミを出すために出てきた。今村容疑者に会って話を聞きたいと告げると、義父はこう困ったような表情を浮かべた。
「由香理なら普段は銀行で仕事しているんだが、今日は休みで家にいるよ。話をしたい? うーん、どうなんだろうな。息子は今日は仕事に行ってないから家にはいるが、熱で寝込んでいるよ。息子は銀行員じゃない、普通の会社員だ。俺? 俺は昔は第一勧銀に勤めていたけど……」
――由香理さんから最近何かあったと聞いてませんか?
「俺は本当に何も聞いてないんだ」
――由香理さんも体調崩されてるんですか? 少しだけでもお話しできませんか。
「由香理は元気だよ。うーん、ちょっと聞いてくるか? わかった。ちょっと待ってて」
しばらくして義父が再び勝手口から顔を出したが、こう言ったきり引きこもってしまった。
「悪いけど由香理に確認したら『会えない』って言ってる。俺は何もわからねえから悪いな」
今村容疑者が10億円分もの窃盗を働いた動機や手口、使途などは警視庁の調べで徐々に明らかになるはずだ。
もし半沢頭取が会見で言及したように、投資の穴埋めに流用していたとすれば、「倍返し」と「土下座」がセットでも顧客や利用者の信頼回復には到底追いつかないだろう。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/村上庄吾